2023/08/30 2023/04/26
【プロ向け】労働衛生コンサルタントの開業形態、個人事業主と法人について解説
労働衛生コンサルタントは士業であると厚生労働省のページに記載されています。労働衛生コンサルタントの事務所は、労働衛生コンサルタントが士業であるとすれば、通常は個人事業形態が一般的でしょう。しかし、実際には労働衛生コンサルタントが法人形態として株式会社を設立しているケースが多いです。
今回は、労働衛生コンサルタントの事業形態に関連して、FPの知識も交えてお話しします。
労働衛生コンサルタントの開業について
労働衛生コンサルタント事務所の開業の形態について
労働衛生コンサルタント試験に合格し、厚生労働大臣が指定した登録機関である(公財)安全衛生技術試験協会に登録することで、労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントとしての活動が可能となります。
登録時には、事務所名や所在地なども登録しますよね。
こちらの記事では、労働衛生コンサルタントは開業を前提とした資格であることをお伝えしました。
そのため、医療法人や、大学等の法人内で許可なく開業している状況は好ましくない場合があることもお話ししました。
そして、労働衛生コンサルタントとして開業する際には、「個人事業主」と「法人」のどちらの形態で開業するかを選択する必要があります。
それぞれにはメリットとデメリットが存在します。
社会保険労務士と行政書士の開業のための士業開業のためのルール
ちなみに、社会保険労務士と行政書士には、それぞれ社会保険労務士法人と行政書士法人の規定が存在します。
行政書士法人や社会保険労務士法人が活動するためには、さまざまな厳しい制約があります。
例えば行政書士法人では、社員(いわゆる役員)が行政書士である必要があります。
行政書士として社員となった場合、別途自分の事務所を登録することはできません。
また、行政書士法人には社員の常駐が求められ、競業禁止義務なども存在します。
参考:行政書士法人の手引 日本行政書士会連合会
もし、労働衛生コンサルタントがこのような士業ルールの縛りがあれば、どこかの株式会社からの業務委託としての業務はできなくなります。
社会保険労務士法人の設立と届出について
引用:全国社会保険労務士会連合会
行政書士法人の設立
引用:日本行政書士会連合会
いわゆる「士業」とは違う労働衛生コンサルタント
この点、労働衛生コンサルタントには労働衛生コンサルタント法人の規定は法令上存在しません。社会保険労務士や行政書士のような士業独特の制約に服さないのです。
そのためか、多くの労働衛生コンサルタントが法人化を検討する場合、株式会社を選択する傾向があると思われます。
日本労働安全衛生コンサルタント会の支部のホームページ上の会員紹介でも、住所や事業所名から「株式会社」で活動していることがわかりますね。
医師や保健師、看護師などの「師」業の属性は、組織をまたいで存在しても問題ありませんが、労働衛生コンサルタントはそのような立場に近いと言えます。つまり、労働衛生コンサルタントは士業であるとされていますが、実際には他の士業と同様の扱いを受けていないのです。
ちなみに、私は個人事業主としての活動しか許されていません。労働衛生コンサルタントは別として、私が保有する複数の士業の資格は、一つの事務所で複数の法人を運営することを許しません。
私も以前、同じ事務所内で株式会社を設立する可能性について社会保険労務士連合会や行政書士会に相談しました。
しかし、区画分けの要件や他の士業事務所との仕切りの必要性、他の事務所を通らずに移動することができるかなど、細かな要件があり、諦めることにしました。
はい、私は今後もずっと個人事業主として活動していくしかないのです。
労働衛生コンサルタントを開業するには、個人事業主?株式会社にすべき?
さて、労働衛生コンサルタントの開業について話を戻しますが、一般的には個人事業主として開業される方が多いです。
そして、収益が増えてきた段階で法人化(株式会社化)するケースも一般的です。
このような点については、税理士に相談することで開業から会計までのサポートを受けることができます。
皆様は「法人成り」という言葉をご存じでしょうか?
法人成りとは、個人事業を終了させ、法人を設立して事業を運営することを指します。
終了させると言っても、積極的に法人となるために個人事業を終了するのです。
法人化(株式会社)のメリットとデメリットについて簡単にお話しします。
ただし、規模が小さい場合を想定しています。「法人成り」に関しては、詳しく解説されているウェブサイトもありますので、そちらを参照していただければと思います。
もし、労働衛生コンサルタント事務所を個人事業主として開業しようとする方にとっては、「法人成り」という言葉は馴染みがないかもしれませんが、既に個人事業主として活動されている方ならおそらくご存知かと思います。
この場合、税理士さんとの相談をお勧めします。
メリット
①法人となることで、対外的な信用を得られる。
②個人事業主は事業所得ですが、法人設立後は法人からの役員報酬となります。
③家族に給与を支払えるようになる。また、経営者の退職金を損金にできます。
④純損失の繰越控除:個人は3年までですが、法人は最大10年繰り越せます。
デメリット
①会計が複式簿記で面倒であり、通常は税理士に頼むことになります。
②税理士の報酬や、法人住民税などにより経費負担が増大します。設立費用も大きいです。
③税務調査が多いようです。
また、実は労働衛生コンサルタント事務所には珍しい規定が存在します。
実は、労働衛生コンサルタントは複数の事務所に登録することができます。
私自身は複数の事務所に登録していませんが、この複数登録の利点については、税理士にご相談されることをお勧めします。
個人事務所においては、産業医の報酬と労働衛生コンサルタントの報酬は所得の種類が違うので注意しましょう
ここまで、労働衛生コンサルタントの業務について解説してきました。
この点、個人で労働衛生コンサルタント事務所を開設して、産業医業務の受託をされている医師も多いかと思います。
個人事務所を開設する場合ですが、労働衛生コンサルタント業務の報酬と産業医業務の所得は別の所得の種類になる可能性が高いと思われます。個人でクライエント企業より産業医業務を受託する場合には、支払われる所得は給与所得となります。労働衛生コンサルタント業務の所得については、契約の形態にもよりますが、事業所得となる可能性が高いと思われます。
そして、事業所得であれば、消費税、インボイス制度も問題となり、必要経費が関係します。また、給与所得であれば消費税は関係ありませんが、必要経費も関係ありません。
なお、個人事務所の社労士業務の報酬については事業所得となり、源泉徴収と消費税の対応も必要となります。また、行政書士に支払われる金銭は事業所得になりますが、原則として源泉徴収は必要ありません。
私がFPとして一般的な話をできるのは、この程度までかと思います。
このように所得の区分については複雑であり、所得控除等やその他留意すべき点がありますので、ぜひ、税理士に相談しましょう。
社会保険労務士やその他士業のダブルライセンスには注意が必要です
株式会社を設立して、労働衛生コンサルタントとして活動している方が、さらに社会保険労務士や行政書士やその他士業のダブルライセンスで活躍しようとされている場合は注意が必要です。
特に、現在産業医で、今後、社会保険労務士の業務(サービス)を株式会社の住所において提供していきたいという方は注意が必要です。
重要なことなのですが、社会保険労務士と行政書士は、法人である株式会社と同じ事務所に同居できません。
これは士業のルールになります。すごく特殊な事務所の構造なら可能かもしれませんが、可能性はまずないでしょう。
この要件については、社会保険労務士連合会や、行政書士支部に確認しましょう。
この場合、株式会社がある場所と別の事務所を準備しなければいけないでしょう。
社会保険労務士と医療職のダブルライセンス時の開業の形態について、以下に記事をまとめました。
まとめ
労働衛生コンサルタント事務所は、士業ではありますが、株式会社や医療法人などの法人形態での開業が一般的です。
労働衛生コンサルタントとして開業を考える方は、まずは個人事業主として開業し、将来的に法人成りを検討されることも多いと思いますが、その際にはメリット・デメリットをよく考える必要があります。
なお、同じ区画の中で士業事務所と株式会社を同時に開設するのは非常に困難です。
したがって、労働衛生コンサルタントと社会保険労務士の両方のライセンスを持つ事業所を運営する場合は、個人事業主としての開業を検討する方が良いと思われます。
産業医事務所、労働衛生コンサルタント事務所、その他士業を併設しようとされる方の所得の区分については複雑であり、所得控除等やその他留意すべき点がありますので、ぜひ、税理士に相談しましょう。
労働衛生コンサルタント事務所を産業医事務所として開設される先生方も多いと思われます。産業医事務所は一定の収益を上げることができる可能性が高いですので、収益が上がった後ではなく、開業前から税理士に相談されることをお勧めします。開業前の段階から適切なアドバイスを受けることで、適切な事業計画を立てることができます。
労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。