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【メンタル】ストレスチェックの高ストレス者に対する医師の面接指導で知っておくべき論点について

高ストレス者への医師面談の基本的な方法についてお話しいたします。法令に基づく内容と、私が実際に行う面談についてお話しします。

ストレスチェックの高ストレス者に対する医師の面接指導で知っておくべき論点について

ストレスチェック制度と医師による面接指導

高ストレス者を対象とする面接指導は、労働安全衛生法の第66条の10によって定められています。ストレスチェック結果で「医師による面接指導が必要」とされた労働者から申し出があった場合、事業者は医師に面接指導を依頼し、実施し、意見を聴かなければなければなりません。この手続きについては、衛生委員会で審議したり、申出期間をいつまでにしなければならない等ありますが、この記事では詳細については省略します。

労働安全衛生法(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第六十六条の十 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
2 事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該検査を行つた医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない。
3 事業者は、前項の規定による通知を受けた労働者であつて、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するものが医師による面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、当該申出をした労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない。
4 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない。
5 事業者は、第三項の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない。
6 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
7 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
8 厚生労働大臣は、前項の指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該指針に関し必要な指導等を行うことができる。
9 国は、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持に及ぼす影響に関する医師等に対する研修を実施するよう努めるとともに、第二項の規定により通知された検査の結果を利用する労働者に対する健康相談の実施その他の当該労働者の健康の保持増進を図ることを促進するための措置を講ずるよう努めるものとする。

e-Gov 労働安全衛生法

 

面接指導の様式について

今回は、医師による面接指導をどのように行えばいいかの解説です。
緑ハイライトの66条の10第4項に、「面接指導の結果を記録しておかなければならない」とあります。
また、青色ハイライト部分にて、「医師の意見を聴かなければならない」とあります。
これらは、条文上は明確に分かれています。

つまり、医師の意見を決定するために必要なのが面談なのです。
面談があくまで手段で、医師の意見を述べることが目的ですね。

そして、上記「長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル」では、最終的なアウトプットとして、以下のような意見書を作成します。
使うのは、「高ストレス者用」か、長時間労働者用と兼ねている「兼用」です。自分専用にカスタマイズしたWord形式を持っておきましょう。


今回は、「兼用」の書式を見てみましょう。よく見ると、上段が、「面接指導結果報告書」であり、下段が「就業上の措置に係る意見書」となっています。
先ほどの、緑ハイライトの66条の10第4項に「面接指導の結果を記録」とありましたが、こちらが上段になります。
また、青色ハイライト部分に、「医師の意見を聴かなければならない」とありましたが、こちらは下段に記載されることになります。
これらの記載については、「長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル]をよく読めば難しくないかと思います。


 面談指導の実際

さて、「長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル]をよく読めば、ストレスチェック面談はできてしまうのですが、せっかくのブログですので、いくつかお役に立つことをお話ししたいと思います。
余り注目されない論点ですが、重要です。

 就業上の措置

この就業上の措置に関する意見書において、就業区分を決定しなければなりません。以下のように、「就業制限・配慮」、「要休業」を選択することもできます。

しかし、この就業制限を書けた場合、労働者の労働条件により、就業不能等になる可能性もあります。
詳細は以下の記事を参照してください・。

 要休業の際の社会保障

この話はあまり話題になっていませんが、医師の面接指導の結果、休業が必要となった場合、社会保障がどうなるかは重要な問題です。
仮に、今回のストレスチェック面談において、プライベートが原因のストレスにより、「休業が必要」と判断された場合を想定しましょう。
お給料は、ノーワークノーペイの原則より、支払われません。


そして、要休業となった原因がプライベートの要因なので労災の給付はありません。
支給される金銭として、可能性があるのは傷病手当金ですが、ストレスチェック制度においては、医師が「高ストレス状態」に対して意見を述べるため、要休業の意見が述べられた場合でも通院していなければ傷病手当金は支給されない可能性があります。そうなると、休業となった労働者が生活に困窮する可能性もあります。

そのため、実際には、高ストレス面談において、要休業の意見を述べるには、精神障害として通院を要するレベルでないと意見を述べにくいです。
医師が、要休業の意見を述べる場合には、休業時の社会保障については考慮しておきましょう。

 ストレスはメンタルヘルス不調(精神障害)なのか?

ストレスチェックの「ストレス」ですが、学術的には、労働者のストレッサーに対する反応である「ストレス反応」になります。
このストレス反応の原因は様々ありますが、実際に業務に当たられた医師の先生方は以下のような内容の面談をされたことがあると思います。

見出し
  1. 周囲の人との人間関係に悩んでいる。
  2. 昇進したが、このままでいいのか不安だ。
  3. 家族の介護が大変でつらい。
  4. ハラスメントを受けている。

このような場合、就業制限・配慮、又は要休業で解決するでしょうか。
①の人間関係の悩みや、②のキャリアの悩みはキャリアコンサルタントが対応したほうが良いですよね。
③については、社内制度の情報提供や社会のリソースの活用が望まれます。
④については、ハラスメントについて、適切な相談機関はもちろん、本人の意向も踏まえてどう対応するか悩むところですが、通常の産業医の業務ではありませんよね。

私は、①や②に対しては、キャリアコンサルタントの技を活用します。傾聴を行い、自己理解や仕事理解を深めてゆきます。
③、④については、社労士としての知識を活用します。


医師(産業医)は、メンタルヘルス不調、いわゆる精神障害については非常に強いです。
しかし、私の経験ではストレスチェック面談で精神障害の可能性があると考え、精神科へリファーすることは5%以下です。
上記のような原因による精神障害とは言えない程度のストレス反応が圧倒的に多いです。

正直、上記例①~④の治療を要しない程度のストレス反応については、精神障害への対応を前提とした産業医のストレスチェック面談にて解決へ導くことは難しいと思われます。

私はキャリアコンサルタントはこの分野で非常に役に立つと考えています。
しかし、ストレスチェック面談においては、法令もありますので、あくまで精神障害がないことを確認してから医師がキャリアコンサルタントにリファーするのが良いかとは思います。

 まとめ

ストレスチェックの高ストレス者に対する医師の面接指導で知っておくべき論点について解説しました。
ストレスチェック面談は、「長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル」を参考にすればできます。
厚生労働省の書式は、面談指導結果報告書と、就業上の措置に係る意見書に分かれることは知っておきましょう。

面談指導の実際において、医師が要休業の意見を述べる際には、休業中の社会保障(金銭)がどうなるのかは知っておきましょう。
医師の意見により就業制限をかけた場合、労働者の労働条件によっては就業不能等になる可能性もあります。

医師(産業医)は、メンタルヘルス不調、いわゆる精神障害については非常に強いです。
しかし、ストレスチェック面談で、精神障害の可能性があるとして精神科に紹介される場合より、精神障害にまで至らないストレス反応が圧倒的に多いです。
この精神障害に至らない程度のストレスへの対応については、精神障害への対応を前提とした産業医のストレスチェック面談にて解決へ導くことは難しいと思われます。

私はキャリアコンサルタントはこの分野で非常に役に立つと考えています。
しかし、あくまで精神障害がないことを確認してからになりますので、医師がキャリアコンサルタントにリファーするのが良いかとは思います。

 

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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