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【キャリコン・事業者向け】治療と仕事の両立支援においてキャリコンはどう活躍できるか産業医が解説

仕事と治療の両立支援についてお話してきました。


ここで、両立支援コーディネーターという方が活躍することは述べましたが、以下の厚生労働省の図表3-2-22をよく見るとなり手として、キャリアコンサルタントの名前も出ています。

今回は、このキャリアコンサルタントが両立支援においてどう活動すべきかを産業医の視点からお話します。

治療と仕事の両立支援においてキャリコンはどう活躍できるか産業医が解説

 両立支援におけるキャリアコンサルタントに期待

図にあるように、「キャリアコンサルタント」(キャリコン)は調整を行う役割を果たすことが示されます。

しかし、この両立支援において、キャリアコンサルタントが具体的にどのような役割を果たすべきかについては詳しく解説されていません。そこで、ここでは実務的にキャリアコンサルタントがどのように貢献できるかについて話してみたいと思います。

産業医の視点から見ると、キャリアコンサルタントは両立支援において非常に重要な役割を果たすことができます。
なお、キャリアコンサルタントの世界において、相談者をクライエントと呼びます。以下、相談者をクライエントと呼称します。

 キャリアコンサルタントの活躍の場面の具体例

 大きな病気にかかってしまったり、障害を負ってしまったときはみな不安で自信を無くしてしまいます

両立支援では、病気や障害の程度に応じて必要な支援の度合いが異なることは理解されていると思います。しかし、まず最初に、病気や障害を負ったクライエントは、これまでできていたことができなくなり戸惑っています。また、将来に対する不安も抱えています。

キャリアコンサルタントは、このような不安に共感し、支援する役割を担います。そして、大きな病気にかかったり障害を負ってしまうということは、人生の転機に当たるため、シュロスバーグの4Sの手法を活用することもあります。これは、クライエントの自己理解を深める手段とも言えます。自分の強みを再確認し、状況を整理し、今後のライフプランやキャリアプランの再構築が必要です。
詳しくはこちらの記事をご参考にしてください。

また、クライエントは、今までできていたことができなくなり、自信がなくなっていることがほとんどです。自信の低下は自己効力感の低下を意味します。バンデューラの自己効力感の理論を用いて、自己効力感を高めることが役立つかもしれません。

 ライフプラン・キャリアプランについて見直す必要について

キャリアについて考える際には、ライフプランを考慮する必要があります。

産業医や人事労務担当者は、しばしば目先の仕事や近い将来のキャリア、現在の障害や病気に焦点を当てがちですが、長期的なライフプランを明確にし、それに基づいて中長期的なキャリアプランを立て、それを実現するために短期的な目標を設定することが重要です。

ライフプランやキャリアプランに関する視点については、キャリアコンサルタントが専門です。医療職の方々も、この分野でキャリアコンサルタントに積極的に相談すべきではと思います。

 自己理解を深めることにより、自分の強みを認識する

キャリアコンサルティングをどのように行ってゆくかについては別に記事にしています。

自己理解の内容は、キャリア志向性、過去の経験、職業能力等、個人を取り巻く諸条件の4つでしたよね。
以下はシュロスバーグの4Sですね。

  • 状況(Situation)
    自分がどのような状況に直面しているのかを正確に理解します。
  • 自己(Self)
    自分自身について考えることも重要です。対処能力や自分の経験、価値観を分析することで、問題が明確化できるかもしれません。
  • 支援(Support)
    自分がどのような支援を、どの程度得られるかです。
  • 戦略(Strategies)
    上記の状況・自己・支援をもとに具体的な戦略を考えます。

この内容は、クライエントが病気や障害に直面し、転機が訪れた場合に考慮すべき重要なポイントになります。そして、その中でクライエント自身の強みを認識することが重要です。過去の経験や能力を活かしながら、病気や障害とともに充実した生活を送るためには、クライエント自身がどうすべきか意思決定できるように支援する必要があります。クライエント自身が意思決定できるようになるというのは重要であり、キャリアコンサルタントが決定するのではありません。
以下は具体的な例です(架空の例です)。

  • 過去に営業の仕事をしていましたが、脳梗塞により車の運転ができなくなり、営業業務も続けることができませんでした。しかし、キャリアコンサルティングを重ねる中で、今まで自分自身がプレイヤーとしてしか営業を行ってきていなかったことに気づき、会社との相談の上、今までの営業の経験を生かして営業のサポート業務、商品管理のマネジメント業務に就くことにし、後進の育成を行うようになりました。その過程で、「教育」について学び、指導にも活かすことができるようになりました。

    また、以前は商品管理と営業職の間で意思疎通が難しく、トラブルも多かったのですが、営業経験のある者が商品管理に関わることで、営業職に必要な情報を的確にマネジメントできるようになりました。

  • 以前は3交代制の工場のラインで働いていましたが、狭心症のため夜勤ができなくなりました。収入の減少に不安を感じましたが、マネープランを見直すことで収入の減少に対応できるようになりました。また、産業医や主治医と連携しながら、狭心症の治療を続けながら安全に業務ができる別の業務に配置転換されました。マネープランについては、家族のことも考えなければならず、自己(Self)と支援(Support)に関する部分も含んでいます。

  • 営業職で勤務していましたが、脳梗塞のため営業に出かけることが難しくなり、どうしたら良いか分からなくなりました。しかし、職務経歴を振り返ることで、過去に経理の経験があることがわかりました。職務経歴の棚卸を行うことで、過去に経理で活躍していた自分を思い出し、自己効力感も上昇しました。脳梗塞罹患後ですが、産業医・主治医と連携し、治療(障害)と仕事の両立支援することで経理の業務を阻害する高次機能障害は認められないことがわかり、営業の経験を活かして経理の仕事で活躍することができました。

そして、重要なことですが、病気や障害を抱えた時点で、多くの人は思い込みに陥ってしまうことがあります。思いつく情報だけで判断や意思決定をしてしまう可能性もあります。こうした状況では、利用可能ヒューリスティックに対処する必要がありますね。

また、クライエントに認知バイアスがかかる可能性もあります。こうしたバイアス等への対応も含めて、キャリアコンサルタントはシュロスバーグの4Sを整理し、支援することができます。

医療機関、産業医との連携

キャリアコンサルタントの治療と仕事の両立支援において、少々難しい点は、キャリアコンサルタントが医療職ではないことです。病気などの専門的な質問については、「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」に基づいて医療機関に相談する必要があります。このやり取りの中で、医学に関する専門的な事柄に対応する必要がある場合は難しいかもしれません。

私の見解ですが、この問題に対しては、産業医や産業保健スタッフがキャリアコンサルタントという職種がどのような役割を担うかについての理解を深めることが必要だと考えます。
もう一つの解決方法は、産業医や産業保健スタッフ自身がキャリアコンサルタントになることです。産業医や産業保健スタッフ自身が自分でキャリアコンサルティングを行わなくても、キャリアコンサルタントの仕事に関する理解は大いに深まるでしょう。

治療と仕事両立プラン作成支援については、以下に作成例をガイドラインより引用いたしますが、やはり、「治療」に関する要素が大きいです。
事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン

 

まとめ

治療と仕事の両立支援において、産業医の視点からキャリアコンサルタント(キャリコン)がどのように活躍できるかについて解説しました。厚生労働省の資料には、キャリアコンサルタントが両立支援コーディネーターとして活躍するべきであると示されています。

治療と仕事の両立支援には、医療職が関与することが想定されていますが、純粋な医療職にはキャリアに関する知識が不足している場合があります。そのため、産業医や産業保健スタッフがキャリアコンサルタントの役割を理解すること、または産業医や産業保健スタッフ自身がキャリアコンサルタントになることが望ましいと考えます。産業医や産業保健スタッフが自身でキャリアコンサルティングを行わなくても、キャリアコンサルタントの仕事に関する理解は大いに深まるでしょう。

現時点では、治療と仕事の両立支援においてキャリアコンサルタントが活躍する機会はまだ少ないようですが、私はキャリアコンサルタントが必須のスタッフであると考えています。
また、障害者雇用において治療(障害)と仕事の両立支援を行う際に、医療とキャリアの専門的知識の組み合わせが非常に役立つと考えています。

こちらについては、そのうち記事にする予定です。

 

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産業医として化学物質の自律的管理に対応可能な医師はあまりいないと思われますが、継続的なフォローも必要なため、産業医又は顧問医としての契約として、お受けしております。

個人ばく露測定のご相談やリスクアセスメント対象物健康診断の実施についても対応可能です。
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Zoom等のオンラインツールを用いて日本全国対応させていただいております。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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