キャリアコンサルタント・心理学について|士業系産業医が語る産業保健
2024/02/05 2024/02/15
【カウンセリング】産業医が知っておくべきキャリアコンサルティングにおけるシステマティックアプローチ

キャリアコンサルティングって、実際にどのような流れで進むのかご存じでしょうか。もちろん、キャリアカウンセラー(キャリアコンサルタント)により、対応は違ってきますが、一般的な厚生労働省のキャリアコンサルティングで有名なのでは、システマティック・アプローチになります。
今回は、産業医の先生方に、キャリコンがどのようなことをしているかのを解説したいと思います。
また、キャリアコンの試験にもお役に立てるように解説したいと思います。
さまざまなカウンセリングの理論とシステマティックアプローチ
様々なカウンセリングの理論において、共通している部分があり、それをシステマティックアプローチと呼びます。
カウンセリングは、様々な理論に基づき行われます。これには心理療法の実施も含まれますが、特にキャリアに関するカウンセリング、いわゆるキャリアカウンセリングでは、多様なアプローチが存在します。その中で有名なものとして、マイクロカウンセリングやコーヒーカップ理論などがあります。
これらのカウンセリング手法には共通点があり、特にキャリアカウンセリングにおいては、カウンセラーとクライエント間の関係構築、問題の把握、目標の共有、および方策の選択と実行といったプロセスの流れが共通しています。
例えば、マイクロカウンセリングでは、「5段階の面接構造(The Five-Stage Interview Structure)」があり、以下のステップを踏みます。ラポールは関係構築を、問題の定義化は問題把握に、目標を設定し、方策を実施していきます。
- ラポール (Empathic relationship)
- 問題の定義化(Story and strengths)
- 目標の設定(Goals)
- 選択肢を探求し不一致と対決(Restory)
- 日常生活への汎化(Action)
アイビイのマイクロカウンセリングについては、以下の記事を参照してください。
コーヒーカップ理論においては、リレーションづくりの段階、問題の把握、問題解決の段階へと移行していきます。
このように、様々なカウンセリングの理論がありますが、カウンセリングの流れは、概ね共通しています。
キャリアカウンセリングのシステマティックアプローチ
このように、様々なカウンセリングに共通する流れに基づいて面談を進めるアプローチをシステマティックアプローチと呼びます。キャリアコンサルティングの分野において非常に著名な書籍、「キャリアコンサルティング 理論と実際」(著者:木村周)によると、カウンセリングプロセスは以下の順序で進められると解説されています。順番としては①カウンセリングの開始、②問題の把握、③目標の設定、④方策の実施、⑤結果の評価、⑥カウンセリングおよびケースの終了の流れになります。このプロセスは、先に述べたマイクロカウンセリングの「5段階の面接構造」と同様の流れを持っています。
キャリアコンサルタントが必ずしもシステマティックアプローチを採用しなければならないわけではありませんが、前述したように、様々なカウンセリングのアプローチがこのプロセスの流れと共通するため、多くの場合、類似の手順を踏むこととなります。
「国家資格 キャリアコンサルタント」と「国家検定 キャリアコンサルティング技能士2級」
実際に、システマティックアプローチは「国家資格キャリアコンサルタント」(以下、国キャリ)および「国家検定キャリアコンサルティング技能士2級」(以下、キャリコン2級)の試験において非常に重要です。実技試験では、多くの受験者がこのシステマティックアプローチの流れに沿って実技を展開していくでしょう。もちろん、コーヒーカップ理論やマイクロカウンセリングなど他の手法を用いることができますが、基本的な流れが同じであるため、結果的にシステマティックアプローチの流れに沿った形で実施されることになるでしょう。
これらのキャリアコンサルタントに関連する資格については以下の記事を参考にしてください。
これらの試験については、国キャリでは、問題把握まで、キャリコン2級では、方策に入ったところまでできることが必要と言われています。

このように、キャリアコンサルタントの実技試験においては、システマティックアプローチを理解しておくことが必要となります。
システマティクアプローチの各部分の解説
次に、マイクロカウンセリングの技法を基に、 システマティクアプローチを進めてていく場合にどのようになるかを考えてみましょう。
関係構築の段階
面接の初期段階で、カウンセラーはクライアントとの関係構築に努めます。これは「ラポール形成」と呼ばれます。ラポールを築くことで、クライアントは自らを開示し、安心して感情や経験を共有できるようになります。この共感的な関係が築けるかどうかが、面接の次の段階に大きく影響します。
関係構築を促進するためには、マイクロカウンセリングが有効です。「関わり行動」を理解し、実践することで関係構築を進めることができるようになるでしょう。
この段階の終わりには、クライアント視点の問題を要約し、カウンセラーとクライアントの双方が認識している状況に食い違いがないかを確認します。このクライアント視点からの問題認識は、目標設定の際に重要な要素です。
問題把握の段階
マイクロカウンセリングの過程では、クライアントとカウンセラーが過去の経験を共有し、クライアントの強みに焦点を当てます。ここでの鍵は情報収集であり、「基本的傾聴の技術」を用いてストーリーの詳細を深掘りしていきます。
クライアントの強みに注目し、そのポジティブな側面を強化することも重要です。例えば、過去の成功体験に関する質問を通じて、成功体験を振り返り、強みに焦点を当てつつ自己効力感を高め、情報を収集します。
この情報収集のプロセスは、クライアントに新たな気付きを促し、来談の目的や問題点を明確化し、クライアントがそれらに対して行動する意欲を確認する機会となります。
このように、キャリアコンサルタントが問題を把握し、クライアント視点の問題と組み合わせて考慮し、それを目標設定へと繋げていきます。
この過程においては、自己理解、仕事理解等を深めていくことが必要となります。
目標設定
クライアントとカウンセラーは、共に達成を目指す目標や課題に焦点を合わせます。クライアントに望む将来の方向性を語ってもらうことで、それを明確化し、具体的な目標を設定し共有します。
この目標設定では、クライアント視点の問題とキャリアコンサルタント視点の問題の両方を考慮し、クライエントと共に検討します。キャリアコンサルタント視点の問題把握には、クライエントへの気付きを促す的確な質問が必要です。
目標に対する合意の度合いは、非常に重要です。合意に至らない場合、次の面談のキャンセルにつながる可能性もあります。目標設定における合意度に不安がある場合は、クライエントに対して気になる点をもう一度確認することが重要です。必要であれば、問題把握の段階へ戻ることも検討しましょう。
方策
クライアントとカウンセラーは具体的な行動計画を策定し、目標に向かって前進します。この方策の引き出しをどれだけ持てるかもカウンセラーの技量になります。
結果の評価
実際に方策を実行して、カウンセリング全体を評価します。
カウンセリングとケースの終了
最終的には、カウンセリングの終了へ向かいます。カウンセリングの終了をクライエントに伝えます。
産業医が、システマティックアプローチを実践する場合の応用事例について
産業医のメンタルヘルス関連の面談において、システマティックアプローチをが有効な場合は多いです
システマティックアプローチを実践する際、産業医がこれをどのように応用できるかについても触れたいと思います。いうまでもありませんが、産業医は医療の専門家であるという特殊性があります。
通常、キャリアコンサルティングを求める人々は何らかの転機に直面していることが多いです。キャリアコンサルティングを受ける動機はさまざまですが、どのような来訪があるかの例として、キャリコン2級の過去問題を参照すると良いでしょう。著作権の問題により、ここではリンクの提示のみとさせていただきます。
キャリコン2級の「ロールプレイケース」のPDFを参照していただければ、キャリアコンサルタントがどのようなクライエントに対応するのかのイメージがわかると思います。例えば、「ロールプレイケース」にあるように、「どうしたら良いかわからない」、「不安だから相談したい」、「将来のことを相談したい」といった理由で来訪することは非常に多いです。この「ロールプレイケース」はかなり実務に即したものになります。
産業医の面談においても、これらに類似した相談が頻繁に行われることがあります。産業医の方々も、この「ロールプレイケース」に示されたようなシナリオで相談を受ける経験があるかもしれません。
実際に、メンタルヘルスに関する相談で産業医に面談を依頼された際には、病気に関する内容よりもキャリアコンサルティングを提供する方が適切なケースが多いという印象を持っています。
また、産業保健の現場、具体的には職場で就業時間中に心理療法(キャリアコンサルティング以外のもの)を実施することは、問題が生じる可能性があります。この点からも、治療ではないキャリアコンサルティングは、産業現場での実施に適していると言えるでしょう。
治療(障害)と治療の両立支援においてもシステマティックアプローチは有効です
病気や障害が原因で仕事を続けることが難しくなる場合があります。このような状況で、クライエント(従業員)と面談し、システマティックアプローチに基づいたカウンセリングを行うことができます。
医師の利点は、疾患や医療に関する深い知識があり、適切な情報収集ができることです。さらに、従業員の現在の健康状態を踏まえ、疾患の経過を予測し、業務内容を考慮した上で具体的な方策を提案することができます。
また、応用として、診療情報提供依頼書を用いて主治医と連携することも一つの方法です。
個人的な意見ですが、医師によるキャリアコンサルティングは非常に大きな可能性を秘めていると思います。
まとめ
キャリアコンサルティングにおけるシステマティックアプローチについて説明しました。
キャリアコンサルティングには多様なアプローチがありますが、これらの手法に共通する要素があります。これには、カウンセラーとクライエント間の関係構築、問題の把握、目標の共有、方策の選択および実施といったプロセスが含まれます。これらの一連のプロセスをシステマティックアプローチと称します。
このシステマティックアプローチは、キャリアコンサルタントの実技試験で知っておくべき重要なアプローチです。
産業医として、キャリアコンサルティングのシステマティックアプローチを踏まえ、メンタルヘルス対応や治療と仕事の両立支援に応用することが可能です。これは高度な技術と言えます。
多くの産業医がキャリアコンサルティングの具体的な内容を詳しく知らないかもしれませんが、この記事が産業医の方々がキャリアコンサルティングを理解する助けとなればと思います。
労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。