2023/06/20 2023/06/21
【プロ・人事労務担当者・産業医向け】がん原性物質の作業記録の保存について解説
2023年6月20日内容を改定しました。
化学物質の自律的な管理についてさまざまな対応を行わなければなりませんが、補完すべき書類の管理は安全衛生の重要なお仕事の一つです。
今回は、ばく露の程度の低減の記録の部分についてわかりやすく、しかし詳細に解説します。
特に、がん原性物質の作業記録の保存については私自身もお問い合わせが多いので詳しく解説します。
よく間違われるのですが、「がん原生物質」の表記は間違いで、「がん原性物質」が正しいです。
化学物質の自律的な管理(がん原性物質の作業記録の保存)
労働安全衛生規則577条の2は重要な条文です
2023年4月から化学物質規制について、労働安全衛生法施行令の改正があり、様々な対応が必要とされます。
では、がん原性物質の作業記録の保存に関する条文を見ていきましょう。労働安全衛生規則577条の2になります。
今後改正されますが、現時点でのe-Govの内容で記載しています。
※令和5年4月1日時点においては第577条の2第2項から第4項までですが、最終的に第12項までになる予定です。
時々記事を書き直して最新の内容にするように努めます。
また、このブログでは、条文と解説の内容のハイライトの色を同色にしていますので、同色を探すと見やすいかと思います。
労働安全衛生規則
(ばく露の程度の低減等)
第五百七十七条の二 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具を使用させること等必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にしなければならない。
2 事業者は、前項の規定により講じた措置について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けなければならない。
3 事業者は、次に掲げる事項(第三号については、がん原性がある物として厚生労働大臣が定めるもの(以下「がん原性物質」という。)を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に限る。)について、一年を超えない期間ごとに一回、定期に、記録を作成し、当該記録を三年間(第二号(リスクアセスメント対象物ががん原性物質である場合に限る。)及び第三号については、三十年間)保存するとともに、第一号及び第四号の事項について、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に周知させなければならない。
一 第一項の規定により講じた措置の状況
二 リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のリスクアセスメント対象物のばく露の状況
三 労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
四 前項の規定による関係労働者の意見の聴取状況
4 前項の規定による周知は、次に掲げるいずれかの方法により行うものとする。
一 当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けること。
二 書面を、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に交付すること。
三 磁気ディスク、光ディスクその他の記録媒体に記録し、かつ、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場に、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
e-Gov 労働安全衛生規則
労働安全衛生規則577条の2第3項にて、事業者は、いくつかの事項ついて保存し、周知する義務を負っています。
今回お話するのは、この保存すべき労働安全衛生規則577条の2第3項1号から4号(上記青地ハイライト部分)の記録についてです。
労働安全衛生規則577条の2第3項の記録の種類
一号 第一項の規定により講じた措置の状況
二号 リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のリスクアセスメント対象物のばく露の状況
三号 労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
四号 前項の規定による関係労働者の意見の聴取状況
なお、こちらが全体につき記載されている厚生労働省ページになります。改正はちょこちょこありますので時々確認しましょう。
化学物質による労働災害防止のための新たな規制について
~労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布))等の内容~
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
労働安全衛生規則577条の2第3項 1号の記録、「第一項の規定により講じた措置の状況」について
リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の化学物質ばく露を最小限にしましょう
まず、化学物質の自律的な管理においては、リスクアセスメントを対策の基本といたします。
リスクアセスメントについては以下の記事を参照してください。
ばく露の程度の低減等について、557条の2第1項に記載があります。
577条の2第1項
事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具を使用させること等必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にしなければならない。
2 事業者は、前項の規定により講じた措置について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けなければならない。
e-Gov 労働安全衛生規則
また、別の指針にて以下のように記載されています。
労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度の低減措置(安衛則第577条の2第1項関係) 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、代替物の使用等の必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にしなければならないこと。
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日
そして、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を最小限度にする方法ですが、577条の2第1項に記載のある「代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具を使用させること等必要な措置」を分解すると以下のようになります。
ⅰ 代替物等を使用する
ⅱ 発散源を密閉する設備、局所排気装置または全体換気装置を設置し、稼働する
ⅲ 作業の方法を改善する
ⅳ 有効な呼吸用保護具を使用する
具体的にどのようにするかは別記事に記載しました。
労働者の意見を聴く機会を設けなければなりません。
そして、これらに基づく措置の内容と労働者のばく露の状況を、労働者の意見を聴く機会を設け、記録を作成し、3年間保存しなければなりません。
労働者の意見を聴く機会ということですが、どこで聴けばいいでしょうか?
こちらは、労働安全衛生規則22条、衛生委員会の付議事項に
「十一 第五百七十七条の二第一項の規定により講ずる措置に関すること。」
が追加されていますよね。
労働安全衛生規則(衛生委員会の付議事項)
第二十二条 法第十八条第一項第四号の労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項には、次の事項が含まれるものとする。
一 衛生に関する規程の作成に関すること。
二 法第二十八条の二第一項又は第五十七条の三第一項及び第二項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置のうち、衛生に係るものに関すること。
三 安全衛生に関する計画(衛生に係る部分に限る。)の作成、実施、評価及び改善に関すること。
四 衛生教育の実施計画の作成に関すること。
五 法第五十七条の四第一項及び第五十七条の五第一項の規定により行われる有害性の調査並びにその結果に対する対策の樹立に関すること。
六 法第六十五条第一項又は第五項の規定により行われる作業環境測定の結果及びその結果の評価に基づく対策の樹立に関すること。
七 定期に行われる健康診断、法第六十六条第四項の規定による指示を受けて行われる臨時の健康診断、法第六十六条の二の自ら受けた健康診断及び法に基づく他の省令の規定に基づいて行われる医師の診断、診察又は処置の結果並びにその結果に対する対策の樹立に関すること。
八 労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置の実施計画の作成に関すること。
九 長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること。
十 労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること。
十一 第五百七十七条の二第一項の規定により講ずる措置に関すること。
十二 厚生労働大臣、都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官又は労働衛生専門官から文書により命令、指示、勧告又は指導を受けた事項のうち、労働者の健康障害の防止に関すること。
e-Gov 労働安全衛生規則
つまり、衛生委員会で上記について労働者の意見を聴き、審議したことを衛生委員会議事録にきちんと記載しましょう。
また、衛生委員会議事録の保存期間は3年間です。(後で出てくるので覚えておきましょう。)
安全衛生委員会議事録の3年間保存の根拠は労働安全衛生規則23条4項になります。
そして、もし50人未満で衛生委員会の設置義務がない事業者はどのように労働者の意見を求めればいいでしょうか。
こちらについては、労働安全衛生規則23条の2があります。
衛生委員会を設けていない場合には、「労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければならない」と記載されています。
機会を設けましょう。
労働安全衛生規則23条4項
事業者は、委員会の開催の都度、次に掲げる事項を記録し、これを三年間保存しなければならない。一 委員会の意見及び当該意見を踏まえて講じた措置の内容二 前号に掲げるもののほか、委員会における議事で重要なもの
(関係労働者の意見の聴取)労働安全衛生規則23条の2 委員会を設けている事業者以外の事業者は、安全又は衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければならない。
e-Gov 労働安全衛生規則
また、「労働者に周知させなければならない」の部分については、衛生委員会議事録の周知義務で満たせますね。
また、通達にも以下のように記載されています。
(抜粋)
(2)安衛則第577条の2第2項※関係 ※令和6年4月1日時点においては第577条の2第10項 本規定における「関係労働者の意見を聞くための機会を設けなければならない」については、関係労働者又はその代表が衛生委員会に参加している場合等は、安衛則第22条第11号の衛生委員会における調査審議又は安衛則第23条の2に基づき行われる意見聴取と兼ねて行っても差し支えないこと。
(抜粋)
イ「第1項の規定により講じた措置の状況」の記録については、法第57条の3に基づくリスクアセスメントの結果に基づいて措置を講じた場合は、安衛則第34条の2の8の記録と兼ねても差し支えないこと。また、リスクアセスメントに基づく措置を検討し、これらの措置をまとめたマニュアルや作業規程(以下「マニュアル等」という。)を別途定めた場合は、当該マニュアル等を引用しつつ、マニュアル等のとおり措置を講じた旨の記録でも差し支えないこと。
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日
ここで、安衛則第34条の2の8を見ると、「リスクアセスメントの結果等の記録及び保存並びに周知」になっています。つまり、リスクアセスメントをきちんと行い、衛生委員会で審議して、通常の衛生委員会議事録やリスクアセスメントの結果などの記録の保存並びに周知があれば、要件を満たすことになります。
(リスクアセスメントの結果等の記録及び保存並びに周知)
第三十四条の二の八 事業者は、リスクアセスメントを行つたときは、次に掲げる事項について、記録を作成し、次にリスクアセスメントを行うまでの期間(リスクアセスメントを行つた日から起算して三年以内に当該リスクアセスメント対象物についてリスクアセスメントを行つたときは、三年間)保存するとともに、当該事項を、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に周知させなければならない。
一 当該リスクアセスメント対象物の名称
二 当該業務の内容
三 当該リスクアセスメントの結果
四 当該リスクアセスメントの結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置の内容
2 前項の規定による周知は、次に掲げるいずれかの方法により行うものとする。
一 当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けること。
二 書面を、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に交付すること。
三 磁気ディスク、光ディスクその他の記録媒体に記録し、かつ、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場に、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
労働安全衛生規則577条の2第3項 2号の記録、「労働者のリスクアセスメント対象物のばく露の状況」について
がん原性物質を製造し、または取り扱う業務を行わせる業務の記録について
がん原性物質を製造し、又は取り扱う労働者に関する記録については、晩発性の健康障害であるがんに対する対応を適切に行うため、当該労働者が離職した後であっても、当該記録を作成した時点から30年間保存する必要があります。
作業記録の保存が30年間と長期にわたるのは、がんをおこす化学物質にばく露してから発がんするまで非常に時間がかかるので、がんに罹患した労働者が労災申請するときに、過去に作業に従事していたことを証明するためです。
また、化学物質を製造し、または取り扱う同一事業場で、1年以内に複数の労働者が同種のがんに罹患したことを把握したときは、その罹患が業務に起因する可能性について医師の意見を聴かなければなりませんが、化学物質にばく露してから発がんするまで非常に時間がかかるので、さかのぼって調査・対策を行うには、過去の記録が必要であるという趣旨になります。
では、この記録にはどのような情報を含めればよいでしょうか?以下の通達では、「労働者のばく露の程度をあらかじめ作業環境測定等により確認している場合」とされていますので、作業環境測定の記録は必要なようですね。
具体的な記載内容については通達などに明記されていないため、事業所の状況に基づいて作成する必要があります。
ウ 「労働者のリスクアセスメント対象物のばく露の状況」については、実際にばく露の程度を測定した結果の記録等の他、マニュアル等を作成した場合であって、その作成過程において、実際に当該マニュアル等のとおり措置を講じた場合の労働者のばく露の程度をあらかじめ作業環境測定等により確認している場合は、当該マニュアル等に従い作業を行っている限りにおいては、当該マニュアル等の作成時に確認されたばく露の程度を記録することでも差し支えないこと。
この2号の内容は、行政にも確認したのですが、はっきりしませんでした。
労働安全衛生規則577条の2第3項 3号の記録、「労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要」について
こちらの内容については、特化物の特別管理物質に同様の規定があるので、まず、見てみましょう。
特化物の「作業の記録」の30年保存の規定との比較
特定化学物質障害予防規則(特化則)の特別管理物質の規定を見てみましょう。
特化物の特別管理物質とは、人体に対する発がん性などが明らかになったものとして指定されている物質です。
特化則(作業の記録)
第三十八条の四 事業者は、特別管理物質を製造し、又は取り扱う作業場において常時作業に従事する労働者について、一月を超えない期間ごとに次の事項を記録し、これを三十年間保存するものとする。
一 労働者の氏名
二 従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間
三 特別管理物質により著しく汚染される事態が生じたときは、その概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
e-Gov 特化則
上記、特化則38条の4のピンクのハイライト部分になりますが、以下の3つの点につき記録の作成義務と保存義務があります。
①労働者の氏名
②従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間
③特別管理物質により著しく汚染される事態が生じたときは、その概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
これらを一月を超えない期間ごとに次の事項を記録し、これを三十年間保存となっています。
なお、以下が私の使っている特化物の作業記録の保存の例になります。
こちらは、特定化学物質・四アルキル鉛等作業主任者テキスト(中央労働災害防止協会編)に記載の例を参照にして作成しています。事案は架空の事案です。
こちらはあくまで特化物の例になりますので、がん原性物質については、また通達などがあるかもしれません。
なお、上記参照図書には、事業所ごとに作業者別で作成したバージョンも記載されています
一応、エクセルも貼っておきましょう。
では、前述の労働安全衛生規則577条の2を再度見てましょう。
577条の2第3項原文
事業者は、次に掲げる事項(第三号については、がん原性がある物として厚生労働大臣が定めるもの(以下「がん原性物質」という。)を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に限る。)について、一年を超えない期間ごとに一回、定期に、記録を作成し、当該記録を三年間(第二号(リスクアセスメント対象物ががん原性物質である場合に限る。)及び第三号については、三十年間)保存するとともに、第一号及び第四号の事項について、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に周知させなければならない。
一 第一項の規定により講じた措置の状況
二 リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のリスクアセスメント対象物のばく露の状況
三 労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
四 前項の規定による関係労働者の意見の聴取状況
そして577条の2第3項3号を見てみましょう。(上記黄色ハイライト部分です。)
577条の2第3項3号
三 労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
つまり、577条の2第3項3号に、特化物の記録(特化則38条の4)に必要とされた
①労働者の氏名
②従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間
③特別管理物質により著しく汚染される事態が生じたときは、その概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
上記3つがまとめられてしまいました。
また、今後、厚労省より通達が出るかもしれませんが、現時点では、類似の条文である特化則38条の4のフォーマットを使って記録を残しておけばよいかと思います。
特化則の記録にないものがあります
さらに、通達では以下のように述べています。
従事した作業の概要については取り扱う化学物質の種類を記載する、又はSDS等を添付するとあります。
エ 「労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要」の記録に関し、従事した作業の概要については、取り扱う化学物質の種類を記載する、又はSDS等を添付して、取り扱う化学物質の種類が分かるように記録すること。また、出張等作業で作業場所が毎回変わるものの、いくつかの決まった製剤を使い分け、同じ作業に従事しているのであれば、出張等の都度の作業記録を求めるものではなく、当該関連する作業を一つの作業とみなし、作業の概要と期間をまとめて記載することで差し支えないこと。
ということなので、指針に沿って、特化物の作業記録の例の表を改変してみました。
労働安全衛生規則577条の2第3項 4号の記録 577条の2第1項の規定による関係労働者の意見の聴取状況
4号の記録は、1号の記録を作成する際にをきちんと手続きを踏めば、勝手にできます。
1号の記録を作成する過程において、衛生委員会、又は労働安全衛生規則23条の2の労働者の意見を聴く機会を設け、その内容を記録すればいいです。
また、通達では、以下のように記載されています。労働者に意見を聴取した都度、その内容と労働者の意見の概要を記録とのことです。
オ「関係労働者の意見の聴取状況」の記録に関し、労働者に意見を聴取した都度、その内容と労働者の意見の概要を記録すること。なお、衛生委員会における調査審議と兼ねて行う場合は、これらの記録と兼ねて記録することで差し支えないこと。
記録の保存期間について注意が必要です。
記録の種類と内容をまとめます。
以下に、労働安全衛生規則577条の2第3項の記録の種類と内容をまとめました。
1号 第一項の規定により講じた措置の状況
労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を、最小限度にするために講じた措置の状況
2号 リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のリスクアセスメント対象物のばく露の状況
労働者のばく露の状況になります。がん原性物質であれば
「がん原性物質を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のリスクアセスメント対象物のばく露の状況」
と読み替えることができます。労働者のがん原性物質の暴露の状況になります。
3号 「労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要」
特化物の特別管理物質の規定に似ています。
4号 前項の規定による関係労働者の意見の聴取状況
そのままです。
そして、記録の頻度は、一年を超えない期間ごとに一回、定期に、記録を作成するとされており
特化物の特別管理物質における「一月を超えない期間ごとに」より頻度が緩和されています。
がん原性物質の記録の保存期間の解説(30年保存と3年保存)
では、上記の記録の保存期間です。ややこしいのは保存期間です。577条の2第3項をもう一度見てみましょう。
一年を超えない期間ごとに一回、定期に、記録を作成し、当該記録を三年間(第二号(リスクアセスメント対象物ががん原性物質である場合に限る。)及び第三号については、三十年間)保存
つまり、がん原性物質である場合、2号、3号は30年保存であり、のこりの1号、4号については3年間保存になります。
ここで、思い出してほしいのですが1号と4号についてまとめると以下のような手順になります。
衛生委員会において
労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置として
ⅰ 代替物等を使用する
ⅱ 発散源を密閉する設備、局所排気装置または全体換気装置を設置し、稼働する
ⅲ 作業の方法を改善する
ⅳ 有効な呼吸用保護具を使用する
そして、これらに基づく措置の内容と労働者のばく露の状況を、労働者の意見を聴く機会を設け、記録を作成し、3年間保存しなければなりません。
つまり、577条の2の1号と4号は衛生委員会で審議し、労働者の意見を聴けばできてしまうのです。
きちんと衛生委員会で上記につき審議し、記録をのこし、通常の衛生委員会議事録の保存(3年:労働安全衛生規則23条4項)を行えば別途記録を作成する必要はありません。
再度まとめます。
がん原性物質の作業記録の保存のまとめ
(労働安全衛生規則577条の2)
がん原性物質について
1号、4号
① 以下については、衛生委員会の審議事項であり、審議し、労働者の意見を聴く機会を設け、記録を作成し、3年間保存しましょう。
・労働者ががん原性物質ににばく露される程度を、以下の方法等で最小限度にした措置の状況
ⅰ 代替物等を使用する
ⅱ 発散源を密閉する設備、局所排気装置または全体換気装置を設置し、稼働する
ⅲ 作業の方法を改善する
ⅳ 有効な呼吸用保護具を使用する
②次に掲げる事項について、一年を超えない期間ごとに一回、定期に、記録を作成し、当該記録を三十年間保存しましょう。
二号 がん原性物質を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のがん原性物質のばく露の状況
三号 労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
様式について
これらの記録の様式についてですが、以前に厚生労働省HPにQ&Aの形で記載がありましたが、現在は削除されています。
その記載では、法令で決まった様式は定められていませんので、上記項目を満たした上で、各事業者で作成・保存しやすい形式で管理してくださいとのことでした。
「がん原性指針」にも注意しておきましょう。
また、労働安全衛生法第28条第3項に基づく指針も公表されています。
第二十八条 厚生労働大臣は、第二十条から第二十五条まで及び第二十五条の二第一項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な業種又は作業ごとの技術上の指針を公表するものとする。
2 厚生労働大臣は、前項の技術上の指針を定めるに当たつては、中高年齢者に関して、特に配慮するものとする。
3 厚生労働大臣は、次の化学物質で厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う事業者が当該化学物質による労働者の健康障害を防止するための指針を公表するものとする。
一 第五十七条の四第四項の規定による勧告又は第五十七条の五第一項の規定による指示に係る化学物質
二 前号に掲げる化学物質以外の化学物質で、がんその他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれのあるもの
4 厚生労働大臣は、第一項又は前項の規定により、技術上の指針又は労働者の健康障害を防止するための指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該技術上の指針又は労働者の健康障害を防止するための指針に関し必要な指導等を行うことができる。
e-Gov 労働安全衛生法
こちらについては
「労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質 による健康障害を防止するための指針 」
が公表されています。
通称、「がん原性指針」といいます。
こちらも記録の保存について、記載はありますが、特化物38条の4の規定と同じですよね。
この指針の通りに行うと、特化物の範囲でしか記録が残らないということになります。
6 労働者の把握について 対象物質等を製造し、又は取り扱う業務に常時従事する労働者について、1月を超えない期間ごとに次の事項を記録すること。
(1)労働者の氏名
(2)従事した業務の概要及び当該業務に従事した期間
(3)対象物質により著しく汚染される事態が生じたときは、その概要及び講じた応急措置の概要 なお、上記の事項の記録は、当該記録を行った日から30年間保存するよう努めること。
「労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質 による健康障害を防止するための指針 」
令和2年2月7日付け健康障害を防止するための指針公示第27号
つまり、がん原性指針の項目に追加して、今回求められているリスクアセスメントの結果等に基づき講じた措置の状況や、ばく露の状況などの記録が求められているため、追加的な対応が必要になります。
がん原性のある物質として厚生労働大臣が定めるものについて
「がん原性物質」をどのように調査して特定するかは別記事を載せています。
まとめ
化学物質の自律的な管理においてがん原性のある物質として厚生労働大臣が定めるものについては記録の保存が30年間になるものがあります。これらの物質の使用しているかどうかについてはきちんと調べましょう。
そのうえでまとめると以下のようになります。
がん原性物質の作業記録の保存のまとめ
(労働安全衛生規則577条の2)
がん原性物質について
1号、4号
① 以下については、衛生委員会の審議事項であり、審議し、労働者の意見を聴く機会を設け、記録を作成し、3年間保存しましょう。
・労働者ががん原性物質ににばく露される程度を、以下の方法等で最小限度にした措置の状況
ⅰ 代替物等を使用する
ⅱ 発散源を密閉する設備、局所排気装置または全体換気装置を設置し、稼働する
ⅲ 作業の方法を改善する
ⅳ 有効な呼吸用保護具を使用する
②次に掲げる事項について、一年を超えない期間ごとに一回、定期に、記録を作成し、当該記録を三十年間保存しましょう。
二号 がん原性物質を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のがん原性物質のばく露の状況
三号 労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
おまけ
また、下記リーフレットにおいて
(2)(1)に基づく措置の内容と労働者のばく露の状況を、労働者の意見を聴く機会を設け、記録を作成し、3年間保存しなければなりません。
ただし、がん原性のある物質として厚生労働大臣が定めるもの(がん原性物質※)は30年間保存です。
※ リスクアセスメント対象物のうち、国が行うGHS分類の結果、発がん性区分1に該当する物質(エタノール及び特別管理物質を除く)。なお、当該物質を臨時に取り扱う場合は除く。
とありますが
「措置の内容」を、労働者の意見を聴く機会を設け、「記録を作成」したものは
577条の2第3項1号、4号に該当し、がん原性物質でも3年が正しいです。
労働安全衛生法の新たな化学物質規制 [PDF:765KB]
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