2023/05/05 2023/05/05
【産業医・人事労務担当者向け】診療情報提供書依頼書に記載すべき依頼事項の内容と労働条件ついて
今回は、診療情報尾提供依頼書の主治医への情報提供依頼事項についてのお話しです。主治医の先生から得たい情報をどのように依頼するかについて解説します。多くの場合、依頼事項を簡単な箇条書きにして記載します。
今回のお話はかなり難しい話になります。
しかし、今後はこれらの論点を扱いこなせなければ産業医業務は厳しいかもしれません。
診療情報提供書依頼書に記載すべき依頼事項の内容について
情報提供依頼をする目的をはっきりしましょう。
診療情報提供依頼書を発行する目的は何でしょうか?
職場復帰支援でしょうか、治療と仕事の両立支援でしょうか。どちらにしても、最終的に医師の意見を述べないといけません。医師の意見を述べるために、診療情報提供依頼書を発行します。
しかし、覚えていていただきたいのは、あくまで最終的に従業員の方が元気に活躍できるようになることが目的です。
こちらの記事に記載していますが、私は、労働安全衛生法13条5項の「労働者の健康を確保するため]に「必要な勧告」を行うために診療情報提供依頼書を発行します。この「必要な勧告」を就業上の措置に関する意見書として、産業医が事業者である法人に提出することになります。以下の記事に詳細を記載しています。
勧告というと厳しいイメージがありますが、あくまでお勧めまでとなります。。ただ、労働安全衛生法の第13条5項では、事業者は産業医が行った勧告を尊重しなければならないとされています。ただし、これは「尊重しなければならない」と記載されているだけであり、事業者は勧告通りに行わなければならない義務はありません。
しかし、産業医の勧告を無視して従業員に悪い結果が生じた場合、事業者は不利益を被る可能性があります。
そして、実際に従業員に対する措置を行う際には、意見書の内容を当該従業員に提示することになるでしょう。
産業医の勧告である産業医の意見書を発行するときは、相当に考えて、また注意してください。
事実上、産業医の勧告は事業者に対してかなりの強制力を有します。
労働安全衛生法13条5項
産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。
e-Gov 労働安全衛生法
このような勧告を記載した意見書を作成するために主治医への質問事項をどのような内容にするか考えなければなりません。
情報提供依頼事項について
診療情報提供依頼書を作成する上で注意すべき点を挙げてみます。
依頼事項の書き方について、依頼事項は「記」以下に箇条書きにしましょう。
以下の書式は、私が汎用している診療情報提供依頼書のひな形です。
まず、「記」という表記の使い方についてご説明します。ひな形の中央部分に「記」と書かれている箇所があります。この「記」の使い方ですが、文書の冒頭に挨拶や文書の概要を書き、その後に本文を一度完結させます。本文が一度完結した後に「記」と書きます。そして、その後に箇条書きで伝えたい内容を簡潔にまとめます。ここで使用する箇条書きは要点をまとめるため、簡潔に書くようにします。
なお、職場復帰支援の手引きのオリジナルバージョンには「以上」という表記は含まれていません。私も個人的には「以上」を付けない方がすっきりとした印象を与えると感じますが、今回のバージョンには「以上」を記載しています。
労働条件は主に、労働契約と就業規則をチェックしましょう。
まず、職場復帰支援の手引きに例として記載されている以下の内容を考えてみましょう。
- 現在の状態(業務に影響を与える症状及び薬の副作用の可能性なども含めて)
- 就業上の配慮に関するご意見(症状の再燃・再発防止のために必要な注意事項など。勤務軽減、配置転換等の必要があれば、その内容と期間)
このような「薬の副作用」に関する質問の場合、車の運転が問題となるかもしれません。
以下の記事に詳細を記載しています。
現在服薬中の薬の副作用が業務にどのような影響を及ぼすのかを知りたいと思いますね。そのためには、現在の業務や将来的に就く予定の労働条件をチェックする必要があります。皆さんは労働条件を確認する際に何を参照しますか?労働契約書と就業規則をまずチェックしましょう。
もしかすると労働協約も存在するかもしれませんね。これらの違いが分からない方は、ぜひ勉強してみましょう。
ここから先の話は、健康診断に関する他の記事でも記載していますが、今回再掲します。
使用者は労働契約を結ぶ際に、労働者に一定の事項を記載した書面を渡さなければなりません(労働基準法15条)。
これを労働条件通知書と言います。労働基準法施行規則5条には、詳細な明示すべき項目が列挙されています。
労働基準法(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
e-Gov 労働基準法労働基準法施行規則
第五条 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七 安全及び衛生に関する事項
八 職業訓練に関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十 表彰及び制裁に関する事項
十一 休職に関する事項
② 使用者は、法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。
③ 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、第一項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
④ 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)
原則書面での明示(労働基準法施行規則5条4項)ですが、現在は労働者が希望した場合には、FAX、電子メール、SNS等でも明示ができます。
実務では、労働契約書と、労働条件通知書を別々に渡す場合もあれば「労働契約書・労働条件通知書」として、一体化する場合もあります。
さて、常時10人以上の労働者を使用する事業所では就業規則が備え付けてあると思います。就業規則にも同じような項目を記載するように定められています(労働基準法89条)。
労働基準法(作成及び届出の義務)第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
この就業規則と労働条件通知書の内容は似ていますね。
ただし、以下の3つに関しては、明示的な義務があるのは労働条件通知書のみです。
・就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
・従事する業務に関すること
・所定労働時間を超える労働の有無
もうお分かりかと思いますが、「就業の場所」と、「従事する業務に関すること」と「所定労働時間を超える労働」(残業)については医師が意見を述べる際に大きく影響します。
この点をチェックするためには労働条件通知書や、労働契約書のチェックは必要になります。
さらに、多くの会社では、就業規則に労働条件通知書・労働契約書に記載されていない部分が記載されてることがほとんどですので、就業規則のチェックが必要になります。
就業規則に記載する内容には、必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、当該事業場で定めをする場合に記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)があります(労働基準法第89条)。
それぞれ、以下になります。
絶対的必要記載事項
①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
②賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
相対的必要記載事項
①退職手当に関する事項
②臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
③食費、作業用品などの負担に関する事項
④安全衛生に関する事項
⑤職業訓練に関する事項
⑥災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
⑦表彰、制裁に関する事項
⑧その他全労働者に適用される事項
以下、就業規則において就業上の措置に影響しそうな要素について解説します。
-
始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
→職場復帰支援や両立支援において、時差出勤ができるか、短時間勤務は可能か等に影響します。また、テレワークの制度についても記載されているかと思いますが、テレワークの頻度や、その時間帯も支援に影響するでしょう。交代制勤務については、深夜労働の禁止等が関係してきます。
-
退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
→労務の提供の程度について記載があるかもしれません。病気休業後に休職期間満了で退職となる場合には、職場復帰支援プランに影響します。 -
就業規則には、有給休暇について記載されていることも一般的です。
→時間単位有給休暇の取得の可否や、有給休暇の付与のタイミング、リハビリ出勤に利用できるか等に関与します。 -
休職に関する定め
→休職が可能な期間や、復職後どの程度の期間を出勤すれば休職期間のカウントが0日なるかという、いわゆる休職期間のリセット規定も記載されているかもしれません。日々の欠勤は休職期間に通算されますでしょうか。
このような情報を総合的に集めて、主治医への依頼事項を決定し、意見書依頼書を作成するのです。
先ほどの職場復帰支援の例である以下についてですが
就業上の配慮に関するご意見(症状の再燃・再発防止のために必要な注意事項など。勤務軽減、配置転換等の必要があれば、その内容と期間)
ここで、「配置転換等の必要性があれば、その内容」とのことですが、主治医が答えるにも、配置転換の内容については当該従業員の労働条件を見ないと何とも言えないでしょう。
極端な例ですが、上記質問に主治医が会社に「今の工場の生産ライン勤務でなく、事務職が望ましい」と意見を述べても、そもそも労働契約に事務職が入っていないかもしれないです。「勤務軽減」についても、主治医に意見を求める前に、会社が時短勤務を受け入れてくれるか、どのくらいの時短勤務が可能なのかをあらかじめ産業医から主治医に情報提供するとスムーズです。
主治医からの意見書の内容について、疑問点があれば、再度、産業医から診療情報提供依頼書を発行し、依頼しなければならないかもしれません。診療情報依頼事項が不確かな表現であれば、主治医の情報提供の論点がずれてしまい、再依頼の可能性もアップします。
上記のような問題が生じるため、産業医側も、主治医からの情報(お返事)を想定して、準備して意見書依頼書を作成します。
よく、内容は考えてください。
私のコツですが、難しい案件であれば、作成したのち、1日、一晩、寝かせるのはポイントです。
次の日に、やっぱりこう書いておけばよかったとか考えることはよくあります。
診療情報提供依頼書の依頼事項の前にきちんと情報を記載しましょう。
従業員の従事する業務についての書き方については、以下の記事に記載しています。
しかし、従業員の現在従事する業務だけではなく、前述したように、労働条件も考慮した記載にしましょう。
従業員のキャリアプランについても考えましょう。
さて、就業上の措置についてですが、労働条件だけで判断するのは適切でしょうか。
最終的には、従業員の方が元気に活躍できるようにしたいですよね。
就業上の措置とキャリアは密接に関連していますので、キャリアの支援も考慮に入れましょう。
キャリア支援は、キャリアコンサルタントの専門分野です。
産業医がキャリアに関する視点を持ち、従業員と面談することにより従業員自身が自己理解や仕事理解を進めた上で、関係者と相談し就業上の措置を検討することが望ましいです。
このようにすると、診療情報提供依頼書の依頼事項も変化することになります。
キャリアコンサルタントと産業医が連携してサポートできると良いでしょう。
初回の産業医面談では、従業員のキャリアについても考慮した面談を行うことで、より多角的な視点でのサポートが可能になります。
これらの書類を誰が作るべきか
この診療情報提供依頼書は、産業医本人が作りましょう。
実は、産業医名義の書類を当該産業医以外が作成する場合は、行政書士法違反になる可能性があります。
以下は、参考記事です。
https://laoffice.jp/3233/
まとめ
診療情報提供依頼書は、職場復帰支援や治療と仕事の両立支援において必要不可欠なツールです。
しかし、その内容については慎重に考慮し、書面化する必要があります。不注意な記載は大きなトラブルの原因となる可能性があります。
従業員の労働条件については事前に十分に調査し、主治医に質問したい事項を明確にしておくと良いでしょう。
労働条件をチェックする際には、労働条件通知書や労働契約書、就業規則を必ず確認しましょう。
労働協約が存在する場合は、それもチェックする必要があります。
また、就業上の措置はキャリアとも密接に関連しています。
キャリア支援を行うためには、キャリアコンサルタントとの連携がおすすめです。産業医がキャリアに関する視点を持つことは重要なことだと考えます。
診療情報提供依頼書は、このようなキャリア支援の視点を考慮して作成すると良いでしょう。
最後に、産業医は責任を持って自ら書面を作成しましょう。注意深く記載することが重要です。
労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。