2023/10/07 2023/10/08
【産業医・人事労務担当者向け】傷病手当金支給申請のための「産業医の意見」による証明
今回は、産業医の証明による傷病手当金の申請についてお話します。
傷病手当金支給申請書では、原則として「療養担当者記入用」の書面については、療養担当者が記入することになっています。この療養担当者とは主治医のことです。産業医は一般的には記入できないのですが、特定の場合には例外があります。
今回は、傷病手当金の申請における、産業医による、被保険者が労務に服することができない場合の証明についてお話しします。
傷病手当金のまとめについては、以下の記事を参照してください。
傷病手当金の支給申請時の産業医の意見
主治医が傷病手当金の書類を書いてくれない場合があります
このような事例はありませんでしょうか。
ケース1
ある従業員がメンタル疾患の治療を受けていたが、5月31日に主治医から6月1日から職場復帰可能である旨の診断書が発行された。
会社に相談したところ、産業医面談後に職場復帰支援を行い、職場環境の調整や職場復帰支援プランの策定もあるので、最短で6月5日より復職になりそうであるとのことであった。
従業員本人が主治医に6月4日まで休業を要する旨の傷病手当金申請書の記載を相談したところ、6月1日から復職可能だと断られ、復職までの4日分につき、傷病手当金が申請できなかった。
ケース2
ある従業員が難病にかかっており、産業医も関わって治療と仕事の両立支援がなされていた。
そんな中、外来通院のため欠勤し、1日分の傷病手当金を申請するために主治医に証明をお願いしたところ、就業可能であるとの理由で傷病手当金の書類の記入を拒否された。
ケース3
ある従業員の業務内容が、労働契約等より、重量物の運搬を伴う業務のみであった。
整形外科的疾患で荷物の運搬ができなくなり欠勤・休職し、治療を行っていたが、治療のかいあって軽作業はできるようになった。この時点で主治医より、復職可能の診断書が発行されました。
しかし、産業医面談を行ったところ、重量物の運搬はできそうにないとのことであり、休職続行となった。
主治医が軽作業はできるから仕事はできると傷病手当金の申請書類を書いてくれない。
このように、傷病手当金の証明を主治医が拒否する場合があります。
病気・ケガでお仕事ができない労働者にとって、傷病手当金が支給されないことは大変な問題です。
通達「傷病手当金の支給に係る産業医の意見の取扱いについて」
さて、前述のように主治医が傷病手当金の申請書への記載を拒否した場合ですが、このような場合に利用できる制度として、以下の通達があります。
○傷病手当金の支給に係る産業医の意見の取扱いについて
(平成26年9月1日) (事務連絡) (全国健康保険協会あて厚生労働省保険局保険課通知)
(平成26年9月1日) (事務連絡) (健康保険組合あて厚生労働省保険局保険課通知)
この通達は、全国健康保険協会(協会けんぽ)と、その他の健康保険組合への二か所へ向けた通達が一つにまとまっています。傷病手当金を申請するのが、全国健康保険協会(協会けんぽ)か健康保険組合かで、どちらの通達をチェックするか違ってきますので注意しましょう。内容としては両通達とも同じです。
この二つの通達では、【質問1】と【質問2】に回答する形で事務連絡がなされています。
以下に引用します。
【質問1】
傷病手当金の支給申請書に添付する医師等の意見書は、産業医が作成することはできるのか。
【質問2】
主治医が就労して差し支えないと診断した一方で、産業医がまだ就労することには慎重であるべきであり、休業を要するという意見であった場合、傷病手当金を支給することはできるのか。
まず【質問1】と【質問2】については、前提となる条件が違うので、その違いを理解しておきましょう。
【質問1】
傷病手当金の支給申請書に添付する医師等の意見書は、産業医が作成することはできるのか。
こちらの【質問1】は、諸病手当金の申請をしようとする従業員(労働者・被保険者)が、主治医から労務不能であることについての意見が得られなかった場合です。
つまり、【質問1】はそもそも最初から主治医から休業を要する旨の診断書を得られなかった場合の話です。
上記、ケース1とケース2が該当します。
【質問2】
主治医が就労して差し支えないと診断した一方で、産業医がまだ就労することには慎重であるべきであり、休業を要するという意見であった場合、傷病手当金を支給することはできるのか。
こちらの【質問2】は、主治医が就労可能と診断した場合であって、産業医が就労することには慎重であるべきであり、休業を要するという意見であった場合です。
つまり、【質問2】は、主治医が就業可能との診断書を発行しており、産業医が休業が必要と判断した場合です。
上記、ケース3が該当します。
この違いを念頭に通達を解説していきます。
傷病手当金の支給申請書の記載における主治医と産業医のかかわりについて
本来、傷病手当金の申請は医師等の意見書が必要ですが、便宜的に、傷病手当金支給申請書を埋めればそれでいいということになっています
通達の以下の部分を解説します。傷病手当金申請の手続きの基本的な部分の解説になります。
被保険者が傷病手当金の支給を受ける際には、健康保険法施行規則(大正15年内務省令第36号。以下「規則」という。)第84条の規定に基づき、傷病名及びその原因並びに発病又は負傷の年月日、労務に服することができなかった期間等を記載した申請書に、被保険者の疾病又は負傷の発生した年月日、原因、主症状、経過の概要及び労務に服することができなかった期間に関する医師又は歯科医師(以下「医師等」という。)の意見書その他の書類を添付して保険者に申請することとされている。
(注)医師等の意見書については、規則第110条に基づき、傷病手当金の支給申請書に相当の記載を受けたときは、添付を要しない。
○傷病手当金の支給に係る産業医の意見の取扱いについて (平成26年9月1日) (事務連絡) (全国健康保険協会あて厚生労働省保険局保険課通知) (平成26年9月1日) (事務連絡) (健康保険組合あて厚生労働省保険局保険課通知)
これを解説すると、「意見書その他の書類を添付して保険者に申請する」(上の引用紫ハイライト)とあることより、本来は、傷病手当金の申請を行う場合には、健康保険法施行規則84条2項(下の引用、緑ハイライト)により、医師等が詳細な診療の内容や、休業の期間について記載した意見書を発行しなければなりません。しかし、この意見書の項目は健康保険法施行規則84条2項に規定されていますが、形式の指定もなく、忙しい医師等にとって意見書を作成するのは大変です。そこで、「(注)」の部分にあるように、傷病手当金支給申請書の記載欄をきちんと埋めれば、別途、診療を行った医師の意見書は必要ないということになります。
以下、健康保険法施行規則84条です。84条2項に「2 前項の申請書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。」(緑ハイライト)と記載されています。
健康保険法施行規則
(傷病手当金の支給の申請)
第八十四条 法第九十九条第一項の規定により傷病手当金の支給を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を保険者に提出しなければならない。
一 被保険者等記号・番号又は個人番号
二 被保険者の業務の種別
三 傷病名及びその原因並びに発病又は負傷の年月日
四 労務に服することができなかった期間
五 被保険者が報酬の全部又は一部を受けることができるときは、その報酬の額及び期間
六 傷病手当金が法第百八条第三項ただし書又は第四項ただし書の規定によるものであるときは、障害厚生年金又は障害手当金の別、その額(当該障害厚生年金と同一の支給事由に基づき障害基礎年金の支給を受けることができるときは、当該障害厚生年金の額と当該障害基礎年金の額との合算額)、支給事由である傷病名、障害厚生年金又は障害手当金を受けることとなった年月日(当該障害厚生年金と同一の支給事由に基づき障害基礎年金の支給を受けることができるときは、当該障害厚生年金を受けることとなった年月日及び当該障害基礎年金を受けることとなった年月日)並びに障害厚生年金を受けるべき場合においては、個人番号又は基礎年金番号及び当該障害厚生年金(当該障害厚生年金と同一の支給事由に基づき障害基礎年金の支給を受けることができるときは、当該障害厚生年金及び当該障害基礎年金)の年金証書の年金コード(年金の種別及びその区分を表す記号番号をいう。以下同じ。)
七 傷病手当金が法第百八条第五項ただし書の規定によるものであるときは、同項に規定する老齢退職年金給付(以下単に「老齢退職年金給付」という。)の名称、その額、当該老齢退職年金給付を受けることとなった年月日、個人番号又は基礎年金番号及びその年金証書若しくはこれに準ずる書類の年金コード若しくは記号番号若しくは番号
八 傷病手当金が法第百九条の規定によるものであるときは、受けることができるはずであった報酬の額及び期間、受けることができなかった報酬の額及び期間、法第百八条第一項ただし書、第三項ただし書又は第四項ただし書の規定により受けた傷病手当金の額並びに報酬を受けることができなかった理由
九 労務に服することができなかった期間中に介護保険法の規定による居宅介護サービス費に係る指定居宅サービス、特例居宅介護サービス費に係る居宅サービス若しくはこれに相当するサービス、地域密着型介護サービス費に係る指定地域密着型サービス、特例地域密着型介護サービス費に係る地域密着型サービス若しくはこれに相当するサービス、施設介護サービス費に係る指定施設サービス等、特例施設介護サービス費に係る施設サービス、介護予防サービス費に係る指定介護予防サービス又は特例介護予防サービス費に係る介護予防サービス若しくはこれに相当するサービスを受けたときは、同法に規定する被保険者証の保険者番号、被保険者番号及び保険者の名称
十 同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病について、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)、国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号。他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)又は地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)若しくは同法に基づく条例の規定により、傷病手当金に相当する給付を受け、又は受けようとする場合は、その旨
十一 次のイ及びロに掲げる者の区分に応じ、当該イ及びロに定める事項
イ 払渡しを受けようとする預貯金口座として、公金受取口座を利用しようとする者 払渡しを受けようとする預貯金口座として、公金受取口座を利用する旨
ロ イに掲げる者以外の者 払渡しを受けようとする金融機関等の名称
2 前項の申請書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 被保険者の疾病又は負傷の発生した年月日、原因、主症状、経過の概要及び前項第四号の期間に関する医師又は歯科医師の意見書
二 前項第四号、第五号及び第八号に関する事業主の証明書
3 前項第一号の意見書には、これを証する医師又は歯科医師において診断年月日及び氏名を記載しなければならない。
4 療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費若しくは保険外併用療養費の支給を受けることが困難であるため療養費の支給を受ける場合においては、傷病手当金の支給の申請書には、第二項第一号の書類を添付することを要しない。この場合においては、第一項の申請書にその旨を記載しなければならない。
5 第一項の申請書には、次の各号に掲げる者の区分に応じ、当該各号に定める書類を添付しなければならない。ただし、保険者が番号利用法第二十二条第一項の規定により当該書類と同一の内容を含む特定個人情報の提供を受けることができるときは、この限りでない。
一 法第百八条第三項の規定に該当する者 障害厚生年金(当該障害厚生年金と同一の支給事由に基づき障害基礎年金の支給を受けることができるときは、当該障害厚生年金及び当該障害基礎年金。以下この号において同じ。)の年金証書の写し、障害厚生年金の額及びその支給開始年月を証する書類並びに障害厚生年金の直近の額を証する書類
二 法第百八条第四項の規定に該当する者 障害手当金の支給を証する書類
三 法第百八条第五項の規定に該当する者 老齢退職年金給付の年金証書又はこれに準ずる書類の写し、その額及びその支給開始年月を証する書類並びにその直近の額を証する書類
6 法第百八条第四項に規定する合計額が同項に規定する障害手当金の額に達したことにより傷病手当金の支給を受けるべきこととなった者は、第一項の申請書に次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 障害手当金の支給を受けた日から当該合計額が当該障害手当金の額に達するに至った日までの期間に係る第一項第四号に掲げる期間及びその期間に受けた報酬の日額に関する事業主の証明書
二 前号に規定する第一項第四号に掲げる期間に係る第二項第一号に掲げる書類
7 第一項の申請書には、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める事項を記載した書類を添付しなければならない。
一 法第九十九条第二項(次条第一項の規定により読み替えて適用する場合を含む。以下この条並びに次条第二項から第四項まで、第六項及び第七項において同じ。)に規定する傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の法第九十九条第二項の標準報酬月額が定められている直近の継続した十二月以内の期間において、使用される事業所に変更があった場合 各事業所の名称、所在地及び各事業所に使用されていた期間
二 次条第二項から第四項までに規定する標準報酬月額がある場合 合併により消滅した健康保険組合、分割により消滅した健康保険組合若しくは分割後存続する健康保険組合又は解散により消滅した健康保険組合の名称及び当該各健康保険組合に加入していた期間
8 第六十六条第三項の規定は、第二項第一号及び第六項第二号の意見書について準用する。
つまり、原則としては健康保険法施行規則84条2項の医師の意見書が必要ですが、傷病手当金の支給申請書に適切な情報が含まれていれば、医師の意見書の添付は不要となります。実際には、こちらの方法が一般的に使用されることが多いと考えられます。
もっと簡単に言いますと、本来、傷病手当金の申請には詳細な意見書が必要なんだけど、傷病手当金支給申請書をきちんと埋めてくれればそれでいいですということです。
傷病手当金申請のための意見書を記載すべき医師は診療を行っている医師です
では、この傷病手当金の意見書を作成する医師はどの医師でもいいのでしょうか。
この通達によると、【質問1】【質問2】より、以下の記載があります。
○ ここで、意見書を作成する医師等は、被保険者の主症状、経過の概要等を記載することとされているため、被保険者が診療を受けている医師等である必要がある。したがって、被保険者が診療を受けている医師が企業内で当該被保険者の診療を行う産業医であれば、当該産業医が意見書を作成することは差し支えない。
○ なお、産業医が意見書の作成に当たって企業内で被保険者の診療を行う場合には、医療法(昭和23年法律第205号)第1条の2、第7条及び第8条の規定に基づき、企業内に診療所等の開設がなされていることが必要となるので留意されたい。
こちらを解説します。
意見書を作成する医師等は、被保険者の主症状、経過の概要等を記載することとされているため、当該医師は、実際に診療を行っている医師等である必要があるとされています。これは診療をしていない医師は意見の書きようがないので当然かと思います。
この点、産業医は診療を行わないのが原則です。このため、診療を行っていない産業医が傷病手当金の意見を書けるのかという論点が生じます。
そこで、この通達では産業医が傷病手当金の意見(つまり、傷病手当金申請書の記載)を行うためには、産業医が診療を行っていることが必要である。その前提として、診療を行う場合には診療所でなければならず、企業内に診療所等の開設がなされていることが必要であると述べています。
つまり、企業内に診療所が存在して、そちらで診療を行うのであれば意見書を作成できるということになります。
では企業内診療所等に勤務していない嘱託産業医は、意見を全く述べれないのでしょうか。
この通達では以下、2つの場合につき記載があります。
- 主治医が証明を拒否した場合
- 主治医が就労可能であると意見を述べたうえ、産業医が終業不可であると意見を述べている場合
この二つの場合について産業医の意見について解説します。
主治医が傷病手当金支給申請書の証明を拒否した場合
このように、産業医は傷病手当金申請のための意見書(傷病手当金申請書の記載)ができないことがわかりました。
しかし、通達には【質問1】について、以下の様な記載があります。
○ また、被保険者が、診療を受けている医師等から労務不能であることについての意見が得られなかった場合、当該医師等とは別の産業医に対し、労働者としての立場で就業についての意見を求め、意見を求められた当該産業医が任意に作成した書類を保険者に提出することは差し支えない。この場合、規則第84条に規定する医師等の意見書には、労務不能と認められない疾病又は負傷に係る意見の記載を求めることとされたい。
また、このような場合、保険者が、被保険者本人の同意を得た上で、当該産業医の意見を聴くことも差し支えない。
保険者においては、これらの書類の提出を受けた場合等には、双方の意見を参酌し、適切な判断をされたい。
まず、前提として、ここで書かれている状況は、「診療を受けている医師等から労務不能であることについての意見が得られなかった場合」になります。
つまり、この記載は主治医から傷病手当金支給申請書の証明を拒否された状況が前提となります。
ここは、【質問2】の主治医が就業可能との診断書を発行している場合と大きく違うことに注意しましょう。
そして、主治医が傷病手当金支給申請書への証明の記載を拒否した場合においても、産業医は原則として診療を行っていた炒め、傷病手当金支給申請書への記載はできません。
しかし、この通達により、産業医に意見を求め、産業医が任意に作成した書類を保険者に提出することは差し支えないとされています。
保険者は意見を参酌し、適切な判断をしていただけるようです。
主治医が就労可能であると意見を述べたうえ、産業医が就業不可であると意見を述べている場合
こちらは【質問2】の状況に該当する場合です。つまり、主治医が就労可能との判断を行っている場合です。【質問1】はそもそも傷病手当金の証明を主治医が拒否した場合ですが、【質問2】は主治医が就業可能の意見を述べた上で、産業医が就労不能と意見を述べている場合です。
主治医としては、就業可能だと意見を述べているので、理論的に傷病手当金申請書に労務に服することができなかった旨の証明を行うことで自己矛盾をきたしてしまいます。
しかし、実際の労働者の業務は労働契約等により決まり、実際の現場を知っている産業医が、主治医が復職可能であると述べている場合でも、就業不能であると意見を述べることはよくあります。
また、主治医が復職可能だと述べている場合でも、本人の病状に鑑み、就労ができるように環境調整を行うまでの期間、休職する場合もよくあります。
さらに、通達には以下のように記載があります。
○ 傷病手当金の支給要件である「労務に服することができないとき」の判断については、「一部労務不能について」(昭和31年1月19日保文発第340号)において、保険者が「必ずしも医学的基準によらず、その被保険者の従事する業務の種別を考え、その本来の業務に堪えうるか否かを標準として社会通念に基づき認定する」との考え方が示されている。
○ 保険者においては、質問1に示した書類等に基づき、被保険者が診療を受けている医師等の意見に加え、産業医からの当該被保険者に係る就業上の意見も参酌し、傷病手当金の支給の可否について判断されたい。
○ なお、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年10月、改訂平成21年3月)においては、主治医と産業医の連携が重要とされ、「主治医による職場復帰可能の判断」に当たっては、産業医をはじめとする産業保健スタッフが、あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報の提供を行うことが望ましいとされていることに留意されたい。
まず、一部労務提供不能については、以下の記事を参照ください。
そして、「保険者においては、質問1に示した書類等に基づき、被保険者が診療を受けている医師等の意見に加え、産業医からの当該被保険者に係る就業上の意見も参酌し、傷病手当金の支給の可否について判断されたい。」とあります。
つまり、質問1に示した書類である、主治医などの医師等とは別の産業医に対し労働者としての立場で就業についての意見を求め、意見を求められた当該産業医が任意に作成した書類であって保険者に提出されてたものがあれば、その内容を斟酌し、傷病手当金の支給の可否を判断してくれるようです。
めちゃくちゃ簡単に言い換えますと、主治医が就労可能と述べている場合であっても、産業医が就業不可であるとの書面を任意に提出し傷病手当金の申請を行うと、健康保険組合は、その意見書の内容を斟酌して傷病手当金の支給を考えてくれるとのことです。
ただ、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」により主治医と産業医の連携を進め、「主治医による職場復帰可能の判断」に当たっては、産業医をはじめとする産業保健スタッフが、あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報の提供を行うことが望ましいとされています。
よって、できるだけ主治医に当該労働者(被保険者)の業務について主治医に情報提供を行うべきでしょう。
この場合、連携には診療情報意見書依頼書を用いるのが確実かと思います。
傷病手当金の支給に係る医師の意見の実務について
さて、では産業医はどのような医師の意見を述べ、書面にすればいいのでしょうか。
具体的には、「規則第84条に規定する医師等の意見書には、労務不能と認められない疾病又は負傷に係る意見の記載を求める 」とありますので、傷病手当金支給申請書の「療養担当者記入用」のページに意見を述べることになります。
私は、傷病手当金支給申請書の療養担当者記入用の「上記期間中における「主たる症状及び経過」「治療内容、検査結果、療養指導」等」の部分を別紙として記載を行います。
今まで、何度も産業医の意見で傷病手当金の申請を行っておりますが、大体認められています。
正直、審査基準は公表されていないのでわかりませんが、経過をきちんと記載すること、その他、傷病手当金支給の要件をみたすことがポイントかなと思っております。
今のところ、私の書いた意見書で傷病手当金の支給が認められなかったことはないです。
また、前述しましたが、上記指針には職場復帰支援の手引きに関することも記載されており、きちんと職場復帰支援がなされていることも条件ではないかと思われます。
あくまで、憶測です。
ちなみに、「産業医」と記載されていますので、産業医として選任されていない医師はできないと思われます。ただ、私の実績として、安衛法13条の2の50人未満であるが、産業医と同様の医師に健康管理を行っている医師による証明により、傷病手当金の支給が認められたことがあります。
内容については、様々なケースがありますので、その状況次第ですね。
労働安全衛生法
(産業医等)
第十三条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
2 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。
3 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。
4 産業医を選任した事業者は、産業医に対し、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の労働時間に関する情報その他の産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定めるものを提供しなければならない。
5 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。
6 事業者は、前項の勧告を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該勧告の内容その他の厚生労働省令で定める事項を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。第十三条の二 事業者は、前条第一項の事業場以外の事業場については、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師その他厚生労働省令で定める者に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならない。
2 前条第四項の規定は、前項に規定する者に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせる事業者について準用する。この場合において、同条第四項中「提供しなければ」とあるのは、「提供するように努めなければ」と読み替えるものとする。
まとめ
傷病手当金の申請書に関する証明は、原則として診療を行っている主治医が行うものです。企業内診療所が存在するなどの例外的なケースを除き、診療を行っていない産業医がこの証明を行うことは通常できません。
しかし、通達によれば、主治医が証明を拒否した場合や、主治医が就労可能であると意見を述べた上で、産業医が就業不可と判断した場合には、産業医は独自に作成した意見書を保険者に提出することが認められています。この意見書は、健康保険組合などが傷病手当金の支給を検討する際に参考にされることがあります。
ただし、産業医による意見書を基にした傷病手当金の申請が必ずしも承認されるわけではないため、この点はクライアントに対して十分に説明することが重要です。
具体的な内容はケースによって異なりますが、近いうちにブログで詳細を共有する予定です。
労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。