事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【医師・産業医向け】医師免許と相性のいい国家資格・技能検定について主観で解説

実は、私は2017年まで医師免許と温泉療法医の資格しか持っていませんでした。産業保健分野で業務を行うにあたり、いくつかの資格を取得しましたが、私の個人的な主観として、医師免許(産業医)とそれらの資格との相性についてお話ししたいと思います。

なお、この記事では国家資格や技能検定に焦点を当てています。専門医に関する詳細は別の記事で取り上げています。

今回は、原則として産業保健の分野での活動での医師免許との相性について解説しています。
また、今回のご紹介する資格は単発の試験や週末の研修を通じて取得することができるものを選んでおりますので、医師としての業務を継続しながら学ぶことができます。

なお、以下の評価は私の個人的な主観です。
産業保健分野における医師免許との相性の良さを★で評価し、★の数が多いほど相性が良いと評価しました。★は5つが最大になります。



①労働衛生コンサルタント ★★★★★

産業保健分野の業務を行う医師の方々にとって、定石の組み合わせです。産業保健分野においては、産業衛生学会認定専門医・指導医がありますが、この産業衛生学会認定専門医・指導医取得は必要でなく、労働衛生コンサルタントの資格取得だけで十分だとの意見も多いです。労働衛生コンサルタント試験に合格することで、日本医師会認定産業医の更新が不要になるというメリットもあります。

労働衛生コンサルタントになると、産業医や産業保健の仕事がたくさん来るかというと、そうではないと思います。結局は、個人の能力、資質による部分が大きいでしょう。労働衛生コンサルタントは、中災防の講師の要件となることもあります。

また、労働衛生コンサルタントは、合格証書のコピーを労働基準監督署に提出することで産業医の要件を証明することができます。そのため、産業医の要件として、労働衛生コンサルタントの合格証書を利用するだけなら、厚生労働大臣が指定した指定登録機関に備える労働安全コンサルタント名簿への登録は必要ないでしょう。しかし、労働衛生コンサルタントは一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会への強制加入はなく、一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会へ加入しなければ年会費もかからないので、登録できるのであれば、登録しておいた方が良いかもしれません。

労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタント(厚生労働省)

②社会保険労務士 ★★★★★(産業保健以外は★★★ )

産業医の業務を行う際には、社会保険労務士資格が非常に相性が良く、役に立ちます。産業医は、自身を労働安全衛生法の専門家と自負する方も多いですが、労働安全衛生法の第1条を見てみましょう。

労働安全衛生法
(目的)
第一条 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。

e-Gov 労働安全衛生法

そこには、「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて」と明記されています。つまり、労働基準法の知識がないと、行き詰る場面も多いのです。
社会保険労務士は労働基準法をしっかり勉強するので産業医と相性がいいです。

さらに、治療と仕事の両立支援のガイドラインにおいて、両立支援コーディネーターの役割を果たすことができる資格として、社会保険労務士が挙げられていますね。労務管理を知り、人事労務系と連携し、従業員に適切な社会保障を提案する。そこに病気に関する知識があれば、相乗効果があるのは明らかです。

産業医はメンタル疾患などの病気の相談を受けますが、休職時の傷病手当金に関する相談や年金の裁定請求の相談などができるようになり、活動範囲が広がり、幅広いサポートが可能となります。


開業医にとっては、自身で社会保険や労災の手続きが理解できる点でも役立つことがありますが、通常は外部に委託されることが一般的です。
産業医業務に関わらない場合は3つ星程度ですが、産業保健に携わる場合は5つ星の相性のよさと評価できるでしょう。

③行政書士 ★★★★

行政書士の業務と医師免許を組み合わせた場合の相乗効果については、当初、なかなか組み合わせるのは難しいなと思っていました。しかし、現在は、産業保健分野において活動する上で、非常に役に立つことがわかりました。

産業保健の観点からは見落とされていた点かもしれませんが、行政書士は、「事実関係に関する証明」を作ることができるのです。以下は、日本行政書士会連合会の解説になります。

「事実証明に関する書類」の作成とその代理、相談業務
行政書士は、「事実証明に関する書類」について、その作成(「代理人」としての作成を含む)及び相談を業としています。
「事実証明に関する書類」とは、社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書をいいます。
「事実証明に関する書類」のうち、主なものとしては、実地調査に基づく各種図面類(位置図、案内図、現況測量図等)、各種議事録、会計帳簿、貸借対照表、損益計算書等の財務諸表、申述書等があります。

他の法律において制限されているものについては、業務を行うことはできません。

日本行政書士会連合会

産業保健の業務というより、人事労務系のお仕事になりますが、例えば、休職する従業員が発生した場合に、どのような「事実証明に関する書面」があるでしょうか。

例えば、会社に急に来なくなり、無断欠勤となった従業員が発生した場合があったとします。ひょっとしたら無断欠勤した従業員は病気で動けないのかもしれません。しかし、会社が嫌になって、単に無断欠勤しているだけかもしれません。

そこで、従業員に書面を送付して、人事労務手続きに乗せていくことが必要です。弁護士法により紛争が絡む場合は行政書士は関与できませんが、純粋な人事労務管理上の手続きであり、紛争が生じないと考えられる場合には、書面の作成業務を行えます。この時に、人事労務手続きのため「事実証明に関する書面」を作成します。

また、病気により休職している従業員に対して、休職期間満了がいつまでであるかをお知らせする書面や、休職期間が満了し退職となる場面に送付する書面等も適時必要になるかもしれません。いわゆる「休職発令書」や「休職期間満了のお知らせ」がこれに当たります。

さらに、安全衛生委員会の議事録の作成も「事実証明に関する書類」の作成に当たります。このように、行政書士は、紛争が発生する余地のない場面において、会社が発行する従業員への連絡の書面を作成したり、各種お知らせ文書等を作成することができます。

他にも、行政書士は「1万件以上の業務を取り扱える」として知られており、私がまだ医師免許との相性の良い業務を見つけられていない分野があるかもしれません。

また、私が産業医として発行する診療情報提供依頼書についても、主治医からどのようなお返事があれば、どのような効果があるのか、どのような事実が確定するのかを想定しながら、文書を作成することができるようになりました。

なお、これらの業務は、行政書士の独占業務となっておりますので、産業医や株式会社が「作っておきます」ということは違法になります。

④ファイナンシャルプランナー(FP)★★★★

はい、実際に産業医業務とは相性が良くありません。
私が取得しようとしたのは、キャリアコンサルタント研修の際に、キャリアコンサルタントにはFPの知識も必要と記載されていたこと、また、病気や障害によってライフマネープランが変更を余儀なくされる方々のサポートをしたいという思いからでした。

しかし、産業医が
「では、年収の低下に伴い、ライフマネープランがどう変わってくるか考えませんか?」
「保険の見直しをしましょう。」
「不動産の売却を提案いたします。」
などと言うのはちょっと違和感がありますよね。

はい、ライフマネープランの見直しについては外部のファイナンシャルプランナーの方が適任ですね。
しかし、FP資格は、自らのマネーリテラシー向上のためにも非常に役立ちます。
その意味で、私は4つ星と評価します。

⑤キャリアコンサルタント ★★★★★

キャリアコンサルタント(以下、キャリコン)は、ずばり産業医業務と、非常に相性が良いです。キャリコンとなる過程でトレーニングを行う、カウンセリングの傾聴スキルは、対人業務全般に役立ちます。キャリアコンサルティングは来談者中心療法や、システマチックアプローチという手法を用いて支援を行っていきますが、産業医がこの手法を身に着けることは非常に有用です。

私の独断に基づく主観として聞いていただきたいのですが、産業現場のメンタルヘルス案件と呼ばれるものの6割はキャリアコンサルタントで対応できるのではないかと思います。また、産業医自身がキャリアコンサルタントとなることで、他のキャリアコンサルタントがどのように活動するかを知ることができ、連携しやすくなります。

また、治療と仕事の両立支援においても、キャリコンは両立支援コーディネーターとなるべき職種となっていますので、産業医がキャリアコンサルタントとなると、両立支援において、キャリアの面から活躍することができます。詳細については別の記事で詳しく解説します。

⑥海事代理士 ??

2023年からの制度については、船員向け産業医との組み合わせが有効かもしれませんが、まだ具体的な詳細は分かりません。今後の展開については未知数です。

⑦作業環境測定士 ★★★★★

産業医にとって、作業環境測定士の取得は化学物質を扱う事業所では必須となるでしょう。2023年からの化学物質の自律的管理の制度を考慮するに、作業環境管理専門家や化学物質管理専門家が必要になるかもしれません。これから、化学物質に関わる産業医を本職にしようとされる医師は、作業環境測定士の資格を早めに取得しておくことをお勧めいたします。

こちらは別記事になります。

⑧公認心理士 ★★★★

公認心理士は比較的新しい資格です。
この資格を取得すると心理系のカウンセラーとしての活動ができます。
詳細については別の記事で説明します。

まとめ

医師免許と相性のいい国家資格・技能検定の資格をまとめました。
医師の先生方が活躍する分野との相性も重要ですね。

他にも中小企業診断士という資格がありますが、私は持っていないため詳細はわかりません。

現代は多様性が求められる時代です。
しかし、多様性とは単にたくさんの人々が存在することではありません。
お互いが相手を理解することが重要です。
私はさまざまな資格を取得しましたが、一番価値があると感じたのは、相手の役割や立場を理解できるようになることでした。多職種と協力して仕事をするためには、そのような理解が必要です。
キャリアコンサルタントとしては、これを「仕事理解」と表現することができます。



皆様もいろいろ勉強して、掛け合わせて新しいものを生み出していくのはどうでしょうか。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

お問い合わせはこちらからお願いいたします。

この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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