2024/01/08 2024/01/08
【まとめ】診療情報提供依頼書と対をなす産業医の強力な切り札である「医師の意見」の活用戦略と実践法
産業医が「医師の意見」を提供することは産業医の重要な役割ですが、その「医師の意見」の適切な活用方法や重要な注意点を詳しく解説した専門書は少ないため、ここでその内容を紹介いたします。
多くの産業医や人事労務担当者は「医師の意見」を簡単なものと考えがちですが、実はそれは高度な知識を要するものです。効果的に「医師の意見」を活用している産業医は実はそれほど多くないかと思います。
この記事では、産業保健の現場に限定して「医師の意見」の具体的な利用方法について詳しく説明します。
産業保健現場で発生する「医師の意見」とは
「医師の意見」という文言が存在している法令はかなり多いです。「医師の意見」を述べるのは、多くの場合、従業員と面談してからとなりますが、健康診断の事後措置の医師の意見のように、従業員との面談が必要なく「医師の意見」を述べる場合があります。
ここでは以下の項目について解説します。
- 健康診断の事後措置として、「医師の意見」を述べる場合。
- 労働安全衛生法13条5項により勧告(意見)を述べる場合
- 傷病手当金支給申請書の医師の意見による証明
- 長時間労働やストレスチェックの医師の意見
- がん等の遅発性疾病の把握強化に関する医師の意見
このように「医師の意見」が登場する場面が多数ありますが、その「医師の意見」を述べる要件が違ったり、意見を述べる際に注意すべきポイントが違ってきます。
「医師の意見」は使い方を間違うと、大きなトラブルにつながります。まずは、「医師の意見」を述べる際に共通した部分につき解説したいと思います。
「医師の意見」を述べる際に知っておかなければならない基本事項
「医師の意見」を述べることによる労働契約への影響は絶大です
まず、事業者から従業員の健康状態に関する意見を求められた際の「医師の意見」について述べます。前提として、事業者(労働基準法上は使用者)と従業員との間には雇用契約が存在します。この雇用契約に基づき、従業員は使用者に労務を提供しています。医師の意見は、この労務提供において制限を設ける場合があります。
例えば、労働契約に基づく労務を従業員が提供できない場合、債務不履行となる可能性があります。実際に債務不履行となるかどうかは、労働契約の内容、就業規則、会社の慣例などによって異なります。また、当該健康状態でも可能な、より軽易な業務の有無も問題になることがあります。
多くの産業医はこれらの論点を考慮せずに「医師の意見」を述べますが、その結果、従業員が労務提供不能になる可能性があることを理解することが重要です。
ただし、後に述べるように、「医師の意見」により休職し、最終的に休職期間満了で退職となった場合、「医師の意見」が合理的でない、妥当でない場合には、休職が遡及的に無効となる可能性があります。この場合、退職が無効であったと紛争が生じる可能性もあります。
また、医師が押印して発行する書類は事実関係の証明となります。一度、使用者、労働者、産業医が共有すると、原則としてその書面は取り消せません。また、産業医としては、面談や話し合いの内容は通常録音されているものと考え、対応することが望ましいです。
多くの産業医は上記の点を考慮せず、また、これからお話しする論点を知らないまま「医師の意見」を述べているかと思います。
「医師の意見」はどのような内容になるのか
当然のことながら、「医師の意見」は法令等に基づき、その内容が異なります。この「医師の意見」の中で最も一般的なのは、就業上の配慮に関するものです。就業上の配慮に関する意見は、多くの場合、「健康診断結果に基づく事業者が講じるべき措置に関する指針」(平成29年4月14日健康診断結果措置指針公示第9号)に準拠した形式で提出されます。
※ このブログでは、この表の就業区分を「事後措置の就業区分」と呼びます。
この指針は重要で、今後の説明にも必要ですので、しっかりと理解しておく必要があります。「区分」と「内容」を連動させましょう。
もちろん、医師の意見の形式は多岐にわたり、「事後措置の就業区分」は単なる一例です。以下で、どのような「医師の意見」が存在し、どのような点に注意すべきかを詳しく解説します。
具体的な医師の意見について解説
① 健康診断の事後措置に関する「医師の意見」
健康診断を受けた後、労働安全衛生法に基づいて、事業者は医師の意見を聴取する必要があります。以下の内容はほとんどの産業医が既に知っていると思われますが、参考のために関連記事を記載しておきます。
この労働安全衛生法66条の4の健康診断の事後措置に関する条文に基づき、さらに「健康診断結果に基づく事業者が講じるべき措置に関する指針」(平成29年4月14日健康診断結果措置指針公示第9号)を参照して対応を行います。労働安全衛生法では、事業者が医師の意見を聴取することが義務付けられています。
(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第六十六条の四 事業者は、第六十六条第一項から第四項まで若しくは第五項ただし書又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。(健康診断実施後の措置)
第六十六条の五 事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成四年法律第九十号)第七条に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
3 厚生労働大臣は、前項の指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該指針に関し必要な指導等を行うことができる。
この規程に基づくと、健康診断の結果が良くなく、現在の業務を行うことが医師によって適切でないと判断された場合、前述の「事後措置の就業区分」の表における「就業制限」や「要休業」が適用される可能性があります。そして、「就業制限」の内容には、「作業の転換、就業場所の転換」が含まれています。ここで考慮すべき問題を掘り下げてみましょう。
もし「作業の転換、就業場所の転換」が現在の労働契約に適合しない場合、どのような対応が適切でしょうか。法令上、就業制限に関して医師が意見を述べる際に、医師は必ずしも労働契約を確認する必要はありません。しかし、労働契約を考慮しない場合、医師の意見が突然提出された際には、企業や従業員の間で混乱が生じる可能性があります。
また、先に示した「健康診断結果に基づく事業者が講じるべき措置に関する指針」には、当該事業場の健康管理部門と人事労務管理部門との連携にも十分留意する必要があるとの記載があります。これにより、両部門の緊密な協力が必要であることが強調されています。
ハ 就業上の措置の実施に当たっての留意事項 (イ)関係者間の連携等 事業者は、就業上の措置を実施し、又は当該措置の変更若しくは解除をしようとするに当たっては、医師等と他の産業保健スタッフとの連携はもちろんのこと、当該事業場の健康管理部門と人事労務管理部門との連携にも十分留意する必要がある。
「健康診断結果に基づく事業者が講じるべき措置に関する指針」(平成29年4月14日健康診断結果措置指針公示第9号)
前述のような問題に対応するため、当該労働者の労働契約を確認する必要があります。以下の記事を参考にしてください。
しかし、労働契約書の確認だけでは当該労働者の労働条件が明確でない場合があります。そのため、労働条件に関する規定の優先順位を検討する必要があります。労働組合が存在する場合には、労働協約の確認も必要です。
また、「作業の転換、就業場所の転換」が配置転換に該当する場合は、配置転換に関連する論点についても理解しておく必要があります。
このような論点を考慮しつつ、当該事業場の健康管理部門と人事労務管理部門と連携し、対応する必要があります。
② 労働安全衛生法13条5項により勧告(意見)を述べる場合
労働安全衛生法13条5項では、産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができるとされています。例えば、以下のような事例になります。
人事労務担当者:「うちの従業員で、病気でしんどいと言っている従業員がいるのです。このままお仕事をさせていいのか心配なので、産業医の先生に一度面談をお願いいたします。」
労働安全衛生法第13条第1項に基づき、事業者は産業医に労働者の健康管理を行わせます。そのため、健康管理に関して相談を受けた医師は、必要があると認めたときは、労働安全衛生法13条5項の「勧告」を行うことになります。勧告の形式に関して書面や口頭など具体的な定めはありませんが、後に「言った」「言わない」というトラブルを避けるためにも、書面での提出が望ましいです。
(産業医等)
e-Gov 労働安全衛生法
第十三条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
(中略)
5 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。
6 事業者は、前項の勧告を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該勧告の内容その他の厚生労働省令で定める事項を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。
この点に関して、従業員の健康に関する事項をすべて意見書ではなく、勧告書で出す必要があるのかと疑問を持つ医師もいるかもしれません。しかし、法令上、従業員の健康状態に関して随時意見を述べるべきとする条文が他に存在しないため、これは勧告の形を取ることになります。この勧告に関する詳細は別の記事で解説していますので、詳しくはそちらをご参照ください。
健康診断に基づく「医師の意見」を述べる場合と異なり、産業医の手元には医療データがないため、治療が開始されたなど医療が関与する場合、主治医の意見を求める必要が生じるかもしれません。
この場合、主治医に診療情報提供依頼書を発行することが必要になることがあります。診療情報提供依頼書により、治療に直接関わる主治医の意見を聞くことができます。特に、主治医が従業員の就業の制限について言及している場合、産業医としては就業に関して慎重な姿勢を取る必要があるでしょう。
このように、主治医への診療情報提供依頼書に基づく、主治医からの診療情報提供書は、産業医やその他の医師が「医師の意見」を作成する際の基礎となり、従業員本人からの医療に関する伝聞ではなく、主治医からの正確な情報を直接に得る手段です。
主治医からの意見書を直接得ることで、主治医の意見が後に変わることも防ぐことができます。
なお、健康診断の事後措置に関する「医師の意見」で述べた論点である、労働者の労働契約を必ず確認する必要性や、配置転換に関連する論点は問題となります。
③ 傷病手当金支給申請書の医師の意見による証明
傷病手当金の申請書の証明は、原則として診療を行っている主治医によって行われます。企業内診療所があるなどの特別なケースを除き、診療を行っていない産業医がこの証明を行うことは通常は不可能です。
ただし、通達に従い、主治医が証明を拒否した場合や、主治医が就労可能であるとの意見を述べた後で産業医が就業不可と判断した場合、産業医は自ら作成した意見書を保険者に提出できます。この意見書は、健康保険組合などが傷病手当金の支給判断を行う際の参考になります。
この場合の「医師の意見」の特殊性としては、主治医がすでに証明を拒否している、あるいは就労可能と意見を述べているため、態度が明確であり、産業医が診療情報提供依頼書を送付して意見を求めても結果が変わらない可能性が高い点です。したがって、主治医との書面でのやり取りは行っても良いですが、あまり意味がないかもしれません。
加えて、産業医は傷病手当金の申請を行う従業員と面談し、経過を聞いた上で任意に意見書を作成しますが、この経過は従業員の説明に基づいたものであるため、実際の治療内容や診断名などの詳細は不正確になる可能性があります。
この傷病手当金の医師の意見を作成する場合には、健康保険が絡みますので、面談を行ってから作成しましょう。オンラインにて、面談を行う場合には、オンライン診療の要件を満たすようにしましょう。
④ 長時間労働面談やストレスチェック面談における医師の意見
80時間を超える時間外労働を行った場合や、ストレスチェックで高ストレスと判断された場合、事後措置が必要になることがあります。これに関しては、法令・ガイドライン等によるチェックリストが存在します。また、就業区分は「事後措置の就業区分」と同様に設定されます。
ストレスチェックの高ストレス者に対する医師の面接指導に関する重要な論点については、以下の記事を参考にしてください。ストレスチェックの面談では、精神障害が疑われ医療機関の受診勧奨を行うような場面よりも、精神障害に至らないストレス反応で悩まれている方が多いです。健康診断で用いられる「事後措置の就業区分」に基づく就業上の措置を行ったとしても、問題が解決しないことがあります。このような場合ではキャリア支援の方が有効である可能性もあります。ハラスメントが関与する場合には、ハラスメントへの対応が有効かもしれません。
また、長時間労働面談やストレスチェック面談にて、休業が必要であるという医師(産業医)の意見が出された場合、当該従業員は休業となります。この際、精神科を受診しても精神障害がないと診断されるか、診断されても休業が不要であると判断された場合、傷病手当金支給申請書に主治医の証明が得られない可能性があります。このような場合、前述の傷病手当金支給申請書の産業医による証明を考慮することが重要です。
⑤ がん等の遅発性疾病の把握強化に関する医師の意見
事業者は、化学物質又は化学物質を含有する製剤を製造し、又は取り扱う業務を行う事業場において、一年以内に二人以上の労働者が同種のがんに罹患したことを把握したときは、当該罹患が業務に起因するかどうかについて、遅滞なく、医師の意見を聴かなければなりません。そして、事業者は、医師ががんの罹患が業務に起因する可能性があると判断した場合、遅滞なく、管轄する都道府県労働局長に報告しなければなりません。つまり、意見を聴かれる医師は、がんの業務起因性を疑うための十分な知識が必要になります。
詳細は、以下の記事で説明しています。
診療情報提供依頼書をもとに主治医から診療情報提供書を得た場合
前述いたしましたが主治医から診断書が出されたものの、その内容が不明確であったり、主治医の詳細な意見を求めたい場合は、診療情報提供依頼書を発行して主治医から意見を得る方法があります。
この診療情報提供依頼書を効果的に使用するためには、就業規則等の整備が必要です。この就業規則の整備は、かなり特殊なため、私としては知らない社会保険労務士には依頼できません。もし、産業医が社会保険労務士のダブルライセンサーとなった場合には、どのような就業規則を整備すべきかのポイントが分かるかと思います。
就業規則等が整っていることを前提として、診療情報提供依頼書を主治医に送付すると、その回答が産業医宛に送付されてきます。
私の場合、この診療情報提供依頼書は労働安全衛生法第13条第5項に基づき、勧告(意見)を述べるために用いるものです。主治医の意見書を入手した後、産業医は面談を実施し、その後企業に意見書を提出します。この意見書を作成する前に、産業医が従業員と面談し、意見書の作成について相談することが望ましいです。
なお、職場復帰のための意見書や、治療と仕事の両立支援のための意見書については、別記事でお話したいと思います。
「医師の意見」の書式・形式について
このような医師の意見ですが、形式が準備されていることがあります。前述の長時間労働面談やストレスチェック面談には、指針により様式があります。また、健康診断の事後措置としての「医師の意見」内容は、健康診断個人票へ記載することが定められています(安衛則51条の2)。この場合、意見を述べた医師の押印は必要ありませんが、記名は必要です。
(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第五十一条の二 第四十三条等の健康診断の結果に基づく法第六十六条の四の規定による医師又は歯科医師からの意見聴取は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 第四十三条等の健康診断が行われた日(法第六十六条第五項ただし書の場合にあつては、当該労働者が健康診断の結果を証明する書面を事業者に提出した日)から三月以内に行うこと。
二 聴取した医師又は歯科医師の意見を健康診断個人票に記載すること。
(以下略)
特定の様式が指定されていない場合、自由な形式で「医師の意見」を記載します。私自身、職場復帰支援の手引きなどを参考に、次に示すような書式を使用しています。内容に関しては高い自由度が求められるため、あまり形式化されていない方が使いやすいと考えています。ただし、意見を記載する際には、従業員の健康を最優先に考慮し、事業者に対し適切なアドバイスや推奨事項を提供することが重要です。この際、私はできるだけ、どのような意見書を事業者に提出するか従業員に見てもらうようにしています。
時折、医師の意見書の内容を従業員と確実に共有したいことがあります。その際には、次のような書面を使用します。これは、私のオリジナルに作成した書面ですが、従業員本人が説明を受けたことを証明するために、赤線で囲んだ部分に署名欄を設けています。この書面は、従業員本人、産業医、そして会社の人事労務担当者が内容を共有し、内容を確定させる際に用います。
このように、意見書と言っても様々な用途や形式がありますが、使いこなせるようになりましょう。
なお、重要な意見を述べる場合には、きちんと自署での署名か、記名押印した物を発行しましょう。
「医師の意見」を述べることでどのような効果があるのかを予想しましょう
「医師の意見」の提出により、特に休職や休業に関して重大な問題が生じることがあります。医師の意見によって労働契約に基づく労務を従業員が提供できなくなると、債務不履行の可能性が生じます。この債務不履行の発生は、労働契約、就業規則、会社の慣例が関係し、また、従業員の健康状態でも就労可能な、より軽易な業務の有無が影響を及ぼすこともあります。
産業医は時折、これらの点を考慮せずに「医師の意見」を述べることがありますが、これが従業員の労務提供不能に繋がる可能性を理解することが重要です。さらに、「医師の意見」に基づく休職が、最終的に休職期間満了後の退職に至った場合、その意見が不合理であると判断されれば、休職が遡及的に無効とされるリスクがあり、結果的に紛争が生じることがあります。特に休業手当の発生には注意が必要です。このような、休職に関する問題だけでなく、配転が妥当であったかという問題にかかわる場合もあります。
さらに、実際に客観的な事実として従業員が就業不能である場合であって、主治医の意見書が就業に問題がないと述べ、本人も就業可能であると主張している場合、産業医は「要休業」との意見を述べることができないかもしれません。そのような状況では、どのような内容の意見書でフォローを行うかが重要となります。このようなケースでは、再休職の条件を設け、会社と従業員とで共有することが効果的な場合があります。
また、うつ病で休職していた従業員の復職支援において、通常勤務の意見が産業医より述べられ、その意見に基づいて従業員が復職するような場合であっても、有給休暇の残日数がなく、欠勤が続く場合は、懲戒事由に該当する可能性があり、従業員に不利な状況となるかもしれません。このような場面のため、懲戒についての知識も産業医は知っておくのが望ましいでしょう。
前述のような状況を避けるためには、従業員の就業規則を含む現状を正確に把握し、検討することが重要です。労務提供が不可能、つまり休業以外の選択肢がない場合には、その事実を客観的に積み重ねる必要があります。難しい案件であれば、紛争が生じる前、つまり休職期間が始まる前からの弁護士との相談をお勧めします。
産業医にはこのようなことを考慮する必要はないという意見もあるかもしれませんが、私は産業医がその役割を果たし続けるためには、いわゆる労務コンサルタントとしての要素を強化し、発展させていくことが必要だと考えています。
このような労働契約における論点を理解するためには、特定社労士となるのがおすすめです
個人的な見解ですが、労働法や民法の契約に関連する問題には、通常の社会保険労務士の知識に加えて、特定社会保険労務士の専門知識が必要だと思います。特定社会保険労務士は、休業、解雇、配転、ハラスメント、懲戒処分などについて学んでいますので、これらの問題に対応できるでしょう。「医師の意見」を適切に提出する能力を身につけたいのであれば、特定社会保険労務士を目指すことをお勧めします。
「医師の意見」の書面は医師(産業医)本人が作成しましょう
「医師の意見書」は、産業医自身が作成しましょう。他人が作成した書面に単に署名や記名押印する場合、誰がその書面を作ったかが問題となる可能性があります。産業医の名で出される書面は、法令上は原則として行政書士によってのみ作成されるべきです。ただし、行政書士は通常、労働法の専門家ではないため、社会保険労務士とのダブルライセンスを有する者でなければ難しい場合があります。
どこかの産業保健サービス会社の担当者や保健師が「この意見書を作成しましたので、サインをお願いします」と産業医等に申し出ることは適切ではありません。このような場合、行政書士法に違反するだけではなく、問題が発生した際に署名した医師が巻き込まれるリスクがあります。
医師(産業医)は、「医師の意見書」の重要性を認識し、適切に対応することが重要です。
まとめ
産業医として「医師の意見」を提供することは重要な役割の一つです。しかし、その「医師の意見」の適切な使用方法や重要な注意点について詳しく説明する文献はあまりないかと思います。
「医師の意見」の提出は労働契約に大きな影響を及ぼす可能性があります。通常、この「医師の意見」は健康診断後の措置に関連する就業区分に基づいていますが、法令によって異なる「医師の意見」が求められることがあります。
「医師の意見」が求められる具体的な場面には、健康診断後の措置、労働安全衛生法第13条第5項に基づく勧告、傷病手当金支給申請書の医師による証明、長時間労働面談やストレスチェック面談時の「医師の意見」、診療情報提供書に基づく意見などが含まれます。
特に、診療情報提供依頼書を使用して主治医から診療情報提供書を依頼する場合、労働安全衛生法第13条第5項に基づく勧告のためにその意見を意見書として提出することが重要です。なお、診療情報提供依頼書を効果的に使用するためには、就業規則等の整備が必要です。そして、この就業規則の整備は、かなり特殊なものになります。
「医師の意見」の書式や形式には所定のものが存在することもありますが、ない場合は自ら作成することもできます。さらに、「医師の意見」を述べることによる効果を予測することも重要です。この効果を予測するためには、労働法や民法の契約と関連する特定社会保険労務士の専門知識が役立ちます。
一部では、産業医にはこれらの考慮が不要という意見もあるかもしれません。しかし、私は産業医がその役割を果たし続けるためには、労務コンサルタントとしてのスキルを強化し、発展させる必要があると考えています。
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