事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【人事労務担当者向け】病気で欠勤が続いた場合の従業員の診断書提出と人事労務管理上の手続きについて

今回は、社会保険労務士として病気による欠勤の開始と、就業規則等の関係、その後どうすべきかについてお話しします。従業員が欠勤し始めたが、休業が開始されたのかかよくわからないということはありませんでしょうか。
以下に架空の例を挙げます。

従業員が欠勤を始めました。既に8日間欠勤しており、最初の3日間は一方的に有給休暇を取得する旨のメールで連絡がありました。しかし、4日目以降は有給休暇がなく、欠勤とされています。その4日目に電話で体調不良による欠勤の連絡がありましたが、その後は連絡が取れなくなっています。

このように、「従業員が体調不良で休んでいるようですが、今後の対応についてどうすべきかわからない」と会社から相談を受けることがあります。今回は、このようなケースについてお話しいたします。

病気で欠勤が続いた場合の従業員からの診断書提出について

従業員が、理由はわからないが休んでいるという状況は避けましょう

皆様の会社では、従業員の連続欠勤が発生した場合に、診断書の提出を求めるでしょうか。診断書を求める場合、その根拠は存在するのでしょうか。また、このような事案では従業員との連絡が取れない状況になる可能性もあります。

労務管理として重要なポイントですが、従業員が長期間欠勤する際に、なぜ欠勤しているのか理解できない状況を作らないようにしましょう。
また、会社が診断書を要求する理由が明確でない場合、従業員も不安を感じる可能性があります。

この点、会社が従業員のの欠勤を、遅刻、寝坊による無断欠勤だと思っていても、実際は重篤な病気で連絡が取れない可能性もあります。ひょっとしたら通勤中の交通事故かもしれません。やはり無断欠勤は心配ですよね。

会社は、もし病気で倒れていることがわかれば、助けに行こうと考えるかもしれません。。しかし、連絡が取れなければ病気で休んでいるのかどうかもわからない状況となります。このような状況を避けるためにも、雇用契約時に、緊急時の連絡先は確認しておくのが望ましいです。

結論を述べますと、就業規則等に規定がない場合、従業員と連絡が取れず、診断書が提出されず、いつ復帰できるかわからない状況になる可能性があります。

欠勤で従業員が有給休暇を取得するときの理由については聞かないほうが良いでしょう

もし、急な欠勤が発生し、従業員が有給休暇を取得する旨を申し出た場合には、会社は理由を問わず受け入れるか、理由についてはあくまで任意で回答してもらい、断られた場合はあっさり引き下がった方がよいでしょう。有給休暇を取得すれば、そもそも欠勤扱いにはなりません。有給休暇には、時季変更権があるのですが、一般的になかなか時季変更権は行使しにくいです。

従業員の有給取得の理由をしつこく追求すると、パワーハラスメントの「個の侵害」とされる可能性もあるため、慎重に対応する必要があります。

参考:「ハラスメント基本情報」ハラスメントの類型と種類 厚生労働省HP

欠勤の理由はさまざまですので、柔軟な対応が必要です

連続した欠勤でも、様々な理由による欠勤があり得ます。家族の育児や介護に関連した欠勤、親族の不幸による忌引き、裁判員の選任などの理由での欠勤は診断書を提出してもらっても意味がないため、このような場合は別途就業規則等で休業事由を明示し、休業の要件とともに規定しておき、対応できるようにしましょう。

育児に関連する場合は育児休暇が、介護に関連する場合は介護休暇が法令で定められています。このような法令に基づく休暇であれば会社は受け入れざるを得ないです。もし、介護による欠勤が長期化する可能性がある場合には、人事労務の担当者は、当該従業員に対して、介護休業制度に関するアドバイスをすることが望ましいでしょう。介護休暇と介護休業は別物になります。

なお、原則として、会社は従業員に対して診断書の提出を命じることはできません。そして、就業規則や労働契約などにその義務が明示されている場合を除き、従業員には診断書の提出義務はありません。

つまり、会社が従業員に対して診断書を命じるためには、就業規則等に診断書提出義務につき、明示しておかなければならないのです。

また、傷病による休職の場合、事業所は通常、休業期間を定めていますが、その休業期間の開始日をいつとするかも問題になります。
従業員が理由がよくわからないまま休んでいる状況は望ましくありません。

少人数の事業所で 就業規則の作成義務がない場合はどうすればいいか

上記の通り、診断書の提出義務に関しては、就業規則や労働契約書に明示されていない限り、従業員にその義務は課されません。この点、常時10人以上の労働者を雇用する事業者には就業規則の作成義務がありますが、10人未満の労働者を雇用する事業所には就業規則の作成義務がなく、就業規則が存在しないことが多いと思います。そのような場合、新たに就業規則を作成するか、労働契約書において診断書提出義務について明示する必要があります。

私は50人以下の事業所の顧問医としても活動しておりますが、少人数の会社の場合、就業規則に休職等の規定がない場合や、そもそも就業規則自体が存在しないことがよくあります。このような場合、まずは就業規則の改定から手を付けます。診断書提出義務だけでなく、その費用負担、休職規程、職場復帰支援、治療と仕事の両立支援など、多くの事項に関する変更が必要になることが多いです。ただし、これらの変更は従業員に不利益をもたらさないように慎重に行う必要があり、社会保険労務士が関与すべきでしょう。

傷病にて欠勤・休職する時の手続きについて解説

傷病による欠勤が続いた場合には、従業員から診断書をもらうようにしましょう

今回は、就業規則がある事業所において、傷病による欠勤の場合の話に限定します。
私は、就業規則の作成・変更において、以下の内容を就業規則に規定することを提案することが多いです。

「従業員が自身の病気の療養のために連続して7日以上労務に服することができない場合、主治医の診断書等の提出を命じることができる

従業員より「調子が悪いので・・・」と訴えがあり欠勤が続いており、欠勤が7日を超える場合には診断書の提出を求めることができるようにします。そして、このように「できる」という形にしておくことには理由があります。

例えば、新型コロナウイルスの流行初期では、発症後10日間の休暇が必要でしたね。新型コロナウイルスに感染し、発症後7日間欠勤した時点で本人の状態がほぼ改善し、11日目にはほぼ出勤できる状態であれば、あえて診断書を求める必要はないでしょう。

この時の診断書の代金については、本人負担にするか、会社負担にするかはきちんと就業規則に記載しておくことをお勧めいたします。

このように、欠勤が比較的長期間にわたって連続している状態で、欠勤の理由や病気の有無が不明な状態を作らないことは労務管理上非常に重要です。

なお、私は診断書提出を連続した欠勤の7日目以降とすることが多いのですが、これは、すぐに治りそうな疾病(インフルエンザ、新型コロナ感染症など)でも1週間くらい休むことがあり、このような場合に診断書を求めると従業員の負担になるかもしれないからです。

しかし、特に法令上の規定はないので、例えば、連続した欠勤4日目以降も診断書を提出するとして、4日目以降に傷病手当金申請のアドバイスを会社が行えるような制度にするのも一つの方法です。

 診断書の期限が切れそうなときは、期間を更新する診断書を提出してもらいましょう。

もし長期の休職が必要で、主治医の診断書を提出してもらった場合、診断書には通常、「〇〇の診断により、〇月〇日から〇か月の休業が必要」といった具体的な記載が含まれます。

ちなみに、よく質問されるのですが、「〇月△日より1か月」と診断書に記載されている場合、応答日までの休業期間となります。(〇+1)月(△-1)日までの休業となります。

例:「8月1日から1か月の休養を要する」と記載されている場合
→8月1日から8月31日までの休業であり、9月1日から復職が可能です。

例:「8月16日から1か月の休養を要する」と記載されている場合
→8月16日から9月15日までの休業であり、9月16日から復職が可能です。

休職期間満了による自然退職などの場合、休業期間がいつまでかについての間違いはトラブルの原因となりますので、従業員本人とも話し合い、正確に説明するようにしましょう。

実務上のコツとして、自然退職などの場合は解雇ではないため解雇予告は必要ありませんが、私は従業員に対して「〇月△日をもって休職期間満了により退職となる」という通知を休職期間満了の30日前までに会社から従業員に提示してもらっています。

休職期間の長さについては、疾病の種類によっても異なりますが、長期間になりそうな場合、主治医も状況を正確に予測できないことがあります。そこで、診断書には通常1〜3か月の範囲で休職期間が記載され、必要に応じて再延長されることが一般的です。

そして、もうすぐ診断書の有効期限が切れるという場合、その期限が来る前に、会社から従業員へ職場復帰が可能か確認しましょう。具体的には「診断書の有効期限が迫っていますが、職場復帰は可能そうでしょうか?」と従業員へ尋ねます。

もし復職ができないという返答であり、診断書の更新が必要な場合、休職を継続する旨の診断書の提出をお願いしましょう。診断書の提出までに時間がかかることもあるため、早めに従業員に依頼することをお勧めします。経験的には、従業員に診断書を依頼してから産業医の手元に届くまでには通常2〜3週間かかることが多いです。

もし、職場復帰ができそうということであれば、職場復帰支援を行ってゆくことになります。

受診や治療をしているかの確認は、診療費の明細書、薬剤説明書、お薬手帳を見せてもらう方法で確認できる場合があります

従業員に診断書の提出義務がある場合でも、診断書の費用負担に関してトラブルが生じることがあります。多くの場合、一通数千円程度の費用がかかります。

病気による欠勤を確認する際、診断書を求める代わりに、診療費の明細書、薬剤説明書、またはお薬手帳などを見せてもらう方法もあります。これらの書類を確認すれば、従業員が病院を受診した事実を確認できるでしょう。この方法の利点は、従業員も会社も費用がかからない点にあります。ただし、これらの書類では、受診した場所や日時は分かるものの、診断名や休職期間の見込みなどの詳細情報は得られないことが多いです。しかし、例えば、お薬手帳にタミフルが処方されている旨が記載されていれば、インフルエンザに罹患したことがわかります。

 診断書に記載されている休職期限が近付いた時には、復職するか、休職を延長するか確認しましょう。

実際に私が産業医として復職に関与する場合、診断書に記載の休職期間が近づいてきたときによく行うのは、前述のように、診断書に記載された休職期間の満了の2週間前くらいに会社から従業員の方へ、以下のように連絡を取ることです。

診断書の期限が△月〇日にきれるのですが、その後復職できそうですか?
もし、戻れそうになければ、その後期間の診断書を△月〇日の前に提出してください。
もし、戻れそうであれば、産業医面談を実施しますので申し出てください。

上記の内容を従業員の伝えていただきます。もし職場復帰が困難であると判断される場合、従業員に継続する診断書の再提出をお願いします。もし職場復帰が可能そうであれば、産業医との面談を行い、職場復帰支援を行います。必要に応じて、診療情報提供依頼書を発行し、主治医との連絡や情報共有を行います。

診療情報提供依頼書については、以下の記事を参照してください。


診療情報提供依頼書の送付については以下に記事をまとめています。

診断書の再度の提出を求める場合でも、就業規則が明確に定めていない場合は、診断書の提出は、従業員の任意となります。また、就業規則に診断書提出の規定があったとしても、診断書の提出を何度も求める中で、費用に関する問題が発生するかもしれません。これらも就業規則として整備しておくべきでしょう。


なお、就業規則の変更には、ヒアリングが必要であり、労働法の理解が必要です。そのため、社会保険労務士に依頼すべきです。また、産業保健サービスを提供する株式会社や産業医が就業規則の作成を行うことは、社会保険労務士法に違反します。

(参考:社会保険労務士連合会HPより)
https://www.shakaihokenroumushi.jp/consult/tabid/220/Default.aspx

産業医も、会社の就業規則を理解し、適切に扱えるようになる必要があります。また、復職に関して、配置転換を伴う場合には労働基準法が関与しますので注意しましょう。

これらの問題は、社会保険労務士と産業医の連携がうまくいくと解決できるのではないかと思います。

診断書に記載の内容がよくわからない場合には、診療情報提供依頼書が有効ですが、高等テクニックになります

従業員に診断書の提出を依頼した場合でも、主治医が述べる診断署の内容が理解できず、診断書の提出が無意味になることがあります。このような状況では、産業医に診療情報提供依頼書を発行してもらい、従業員の主治医に詳細な意見書を発行してもらう方法が考えられます。従業員数が50人未満などの理由で産業医がいない場合、顧問医として、外部の医師に対応を依頼することが一つの解決策です。

この、診療情報提供依頼書により、主治医に意見を求める場合には以下の手順が必要になります。

1.従業員との面談
2.診療情報提供依頼書の発行
3.主治医からの意見書(診断書)の取得
4.医師による意見の提出。

これらのプロセスは時間がかかり、スポットでの医師による対応は難しいかもしれません。時には、主治医からのお返事である診療情報提供書に対して、さらに再度の診療情報提供依頼書をかけていくこともあります。

産業医と主治医とのやり取りは、事実関係に関する書面交換が中心となり、これは行政書士の業務に似た側面があります。産業医の中にはこのような主治医とのやり取りを頻繁に行う者は少ないかもしれませんが、私は積極的に行っています。もしやり取りで齟齬が生じた場合には、主治医と産業医(私)の面談を行うこともあります。

詳しくは、以下の記事を参照してください。

従業員の方が診療情報提供書・診断書を主治医に書いてもらうために

従業員の方が診療情報提供書・診断書を主治医に書いてもらう方法については、以下の記事を参照してください。もし、主治医が診断書の作成を拒否する場合で、会社に産業医がいるのでれあれば、産業医から診療情報提供依頼書を発行してもらうのも一つの方法です。

 休職手続きが始まったら、休職期間を確認し、休職発令書を発行しましょう

休職期間を確認し、従業員の方へ書面で通知しましょう

就業規則に基づき休職が開始される場合、休職の発令は書面で行うことが望ましいです。多くの就業規則では、休職期間の満了に伴い自然退職となる規定が設けられていることが一般的です。

(休職)
第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
① 業務外の傷病による欠勤が○か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき○年以内
② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき         必要な期間
2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。
3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

参考:モデル就業規則 厚生労働省 (令和5年7月)

休職期間に関しては、「休職期間の満了により退職」とする規定があり、期間を1日でも超えると退職となるケースがあります。そのため、休職期間がいつから開始され、いつ休職期間の満了となるかを従業員に明確に伝えることが、トラブルを避ける上で重要です。

なお、会社のために、休職発令書を作成することは、行政書士の業務になります。実際には、就業規則の内容を引用しながら作成されます。

休職期間のリセット期間について

法令には明確に定められていないものの、就業規則等では、いわゆる「休職期間のリセット期間」が設定されている場合があります。この「休職期間のリセット期間」とは、従業員が病気で休職し復職した後、再度同じ病気で休職する際に、一定の期間内であれば休職期間が通算される仕組みを指します。つまり、リセット期間を過ぎると、休職期間はリセットされ、新たな休職期間として計算されることになります。このリセット期間に関する規定は、就業規則などに記載する必要があります。

もし、休職していた従業員がいったん復職し、リセット期間を経過する前に再度休職する場合には、休職期間が通算されますが、同時に、休職期間の満了日が新たに設定されることになります。このように、休職期間の満了日が移動する場合には、必ずその都度、このままでは、いつが休職期間満了日で退職日となるかを、再度、書面をもって従業員へ通知しておいた方がよいでしょう。

まとめ

従業員の欠勤が続いた場合、なぜ欠勤しているのかわからない状況は作り出さないようにしましょう。
また、有給休暇を取得している場合は欠勤とはみなされません。

診断書の提出については、就業規則などに明記しておかない限り、従業員に提出を命じることはできません。
従業員から診断書を提出してもらった後、長期の休職が予想される場合には、診断書の期限が近づいたら、会社より復職の見込みについて問い合わせた上、復職できなければ、休職を更新するための診断書を提出してもらいましょう。

産業医も、会社の就業規則を適切に扱えるようになる必要があります。
社会保険労務士と産業医が連携し、うまく協力していくことが望ましいです。

 

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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